【楊枝秀基のワッショイ!スポーツ見聞録】ビッグボス節は快調だった。名護で行われた11日の練習試合、阪神戦で先発・藤浪晋太郎と新庄・日本ハム打線がリアルで初対戦。3回1安打無得点に抑えられた。

 試合も引き分けに終わったのだが、新庄剛志監督(50)の表情はすこぶる明るかった。

 初回の攻撃では上野、片岡、宮田の3選手すべてにセーフティーバントを指示。フェアゾーンに転がせず結果、三者凡退に終わってしまった。

 ともすれば、単なる奇策にも見える作戦だ。だが、ここにもビッグボスなりの意図が存在した。

「怖いと思うよ。俺ならこうなるで(腰を引いたポーズで)。ファースト側(は可能として)。サード側はちょっと難しいかな。まあできないと思って」

 MAX162キロの豪速球に加え、荒れ球で有名な藤浪。その剛腕相手に打者の目が慣れていないこの時期、バントは至難の業と分かってはいた。それでもあえてトライさせた。

「プロ野球選手だからね。失敗をベンチから見てたら、他の選手は俺だったらこうするという修正をするんですよ。頭の中で」

 あえて、難題を共有させた。それによって、全体のレベルアップを図ったのだ。

 伏線はあった。キャンプ第1クールの2日、藤浪の映像と投球が連動する最新式打撃マシンを140~145キロの高速に設定。体感速度はそれ以上になるため、打者は空振りを繰り返した。

 そして、この日のリアル対戦と課題をしっかりリンクさせてきた。それもこれも昨季、ともにリーグ最下位のチーム打率2割3分1厘、総得点454の打線を改善させたい気持ちの表れだ。

 ビッグボスは、この日の藤浪の投球への印象を「バーチャルの方が速かった。まだ、本気モードじゃないだろうし。彼なりの課題があって投げてるだろうから。思い切り投げているだろうという気はしなかった」と表現した。この発言には藤浪へのエールも含まれているはずだ。

 今年1月、ビッグボスは日本ハムOB・岩本勉氏のユーチューブ番組に出演。その場で藤浪の獲得を熱望した。「俺、ほしい選手が一人いる。阪神の藤浪」と爆弾発言。それにとどまらず「俺のところに来たらもう、化ける」とも言ってのけた。

 藤浪に関しては、その潜在能力と結果の乖離に多くの球界関係者が首を傾げる。「環境を変えてあげた方がいい。他球団か、それともいきなり海外だっていい。能力がずば抜けているのは、まぎれもない事実だから」と語る球界関係者も存在する。ただ、当事者としては、そう簡単にはいかないのが現状だ。

 くしくもこの日は恩師・野村克也氏の三回忌。「僕が(日本ハムの)監督になって、タイガースと試合して引き分けで終わって。野村さんだったらどういうサイン出したんだろとか思いましたね」と思いを巡らせた。

 自軍のみならず古巣の後輩をも鼓舞する「発信力」。天真爛漫なようでいて核心を突くビッグボスの言葉から、耳が離せない。

☆ようじ・ひでき 1973年生まれ。神戸市出身。関西学院大卒。98年から「デイリースポーツ」で巨人、ヤクルト、西武、近鉄、阪神、オリックスと番記者を歴任。2013年からフリー。著書は「阪神タイガースのすべらない話」(フォレスト出版)。21年4月にユーチューブ「楊枝秀基のYO―チャンネル!」を開設。