【大下剛史・熱血球論】2016年からリーグ3連覇を成し遂げた広島は3年連続Bクラスと低迷している。20年から指揮を執る佐々岡真司監督(54)も5位、4位と結果を残せていない。主砲の鈴木誠也外野手(27)がポスティングシステムを利用してのメジャー挑戦を目指す中、来季は巻き返すことができるのか? カープOBで本紙専属評論家の大下剛史氏は「佐々岡監督にとって来季は勝負の年」と切り出し、チーム再興のキーワードに「原点回帰」を挙げた。

 担当デスクからのオーダーは「投手編、野手編で来季のカープについて占ってほしい」というものだったが、その依頼は断らせてもらった。チームの現状を考えれば、用兵や作戦について論じる段階ではないからだ。それぐらい今のカープは危機的状況にある。

 この2シーズンは新型コロナ禍のため記者席からの観戦にとどまっているが、本拠地開催のほぼすべての試合を見て感じたことは「佐々岡監督の目指している野球が見えてこない」という点に尽きる。

 投手力を武器に守り勝つ野球をするのか、はたまた多少の失点には目をつむって攻撃野球に徹するのか、機動力で相手をかく乱するのか…。どれも中途半端だったから決め手がなかったように思う。

「石の上にも3年」と言うが、佐々岡監督は来季で3年目を迎える。ファンだって、いつまでも温かく見守ってくれるわけではない。はっきり言って、来年は勝負の年になる。

 これ以上、かわいい教え子でもある佐々岡監督が苦悩する姿を見るのはつらいし、何とか結果を出していい思いもしてもらいたい。だからこそ今回は厳しいことを言わせてもらう。

 まず着手すべきは目指す野球を明確にすることだ。球団史を考えれば悩むことはない。守りを固め、機動力でかき回して少ないチャンスをものにする。伝統的にカープが得意としてきた野球だ。

 前年の最下位から初優勝を果たした1975年もそうだった。手前みそな話になるが、前年オフに私が必要とされて日本ハムからトレードでやってきたのは走力と守備を買われていたから。ルーツ監督から古葉監督へと引き継がれた同年は、まさに赤ヘル野球の原点になった。

 目指す野球がはっきりすれば、起用する選手も決まってくる。あれもこれもできたほうがいいと欲張れば、結果としてやる野球もブレてしまう。守備と走塁に力を入れるなら、長打力は捨ててもいい。走攻守すべてがそろっている選手などそういないのだから、二兎も三兎も追うのではなく、いちずに一兎を追うべきだろう。

 もちろん、佐々岡監督だけの問題ではない。脇を支えるコーチ陣やフロントも一丸となってチーム再興に必要なことは何かをいま一度、真剣に考える時が来ている。16年からのリーグ3連覇でファンも含めて「勝って当たり前」のような雰囲気になっていた。しかし、勝負事はそんなに甘いものではない。

 泥にまみれ、それこそ「胃から汗が出る」ほどの厳しい練習を積み重ねることでカープの伝統は築かれてきた。そうした努力をプレーから感じ取り、惜しみない拍手を送ってくれるのがカープファンでもある。求められているのは本塁打頼みの大味な野球ではなくハラハラ、ドキドキするような野球だ。

 プロ入りからカープ一筋の佐々岡監督なら、こんなことは百も承知のはず。

 あとは腹をくくれるかどうか。ササよ、楽しみにしているぞ。

(本紙専属評論家)