阪神は21日の巨人戦(東京ドーム)に2―3で敗れ、9日のDeNA戦(横浜)から続いていた連勝はついに「8」で止まった。ここまでは投打盤石な状態でVロードをひた走る2021年の矢野阪神。ナイン、チームスタッフのみならず、お膝元・兵庫、大阪の街の隅々にまで「優勝の予感」は濃密に漂っている。とはいえ現在は出口の見えぬ深刻なコロナ禍の真っただ中。平時ならば1000億円を優に超すと言われる阪神優勝の経済効果の恩恵が街を潤してくれるかというと、どうにも状況は悲観的なようで――。

 阪神は初回に近本の2号先頭打者弾、マルテの3戦連発となる6号ソロで幸先よく2点を先制。チームには今季ここまで「先制点を挙げれば16戦全勝」という不敗神話が継続していたが、この日は先発投手の青柳がG打線の反攻を抑えきれず6回3失点。好調だった虎打線も2回以降は無得点に封じられ、今季初の逆転負けを喫してしまった。

 矢野監督は久々の敗戦にも淡々。「青柳は絶好調というわけではなかったが、しっかり投げてくれた。(無死三塁の好機を生かせなかった)3回の攻撃も、本音を言えば1点が欲しかったけど、みんなが積極的に打ちに行った結果なので受けとめている」とナインをかばい球場を後にした。

 開幕21試合を終え、チームは16勝5敗。勢い頼りではなく、確かな地力の強さも感じさせる試合内容に「アカン! 優勝してまう!」と早くも心を躍らせる虎党たちは多い。加えてこの日はウエスタン・ソフトバンク戦(鳴尾浜)に、韓国球界で本塁打王・打点王の2冠を獲得したメル・ロハス・ジュニア外野手(30)が初出場し、3打数1安打2打点と、早速の猛アピール。韓国球界20勝右腕のラウル・アルカンタラ投手(28)も早期の実戦出撃へ向けスタンバイ中だ。大幅な戦力の上積みも十分に期待できるだけに、今後の展望も極めて良好だ。

 だが、快進撃を続けるチームとは裏腹に、未曾有のコロナ不況に沈む球場周辺の街の風景はあまりにも物悲しい。日本政府はこの日までに、球団所在地の兵庫県、及びその隣に位置する大阪府などに3度目となる緊急事態宣言を発令することを検討。飲食店や百貨店などへの幅広い休業要請が出ることも予想されている。

 本来ならば虎党たちの財布のヒモを大いに緩めてくれるはずだった阪神の快進撃。大阪きっての歓楽街・北新地でスナックを営む男性は「2003年、05年に阪神が優勝した時はすごかったですよ。球場帰りの方々が次々に上機嫌でお店に来てくださいましたからね。優勝決定日には太客の方が店を借り切って、大量のシャンパンを空けてくださいました」と当時を懐かしむが、今は終わりの見えぬコロナ禍の真っただ中。これまでのように“強虎特需”の恩恵を受けることは無理だろうとの見解を示す。

 阪神ファンが多く集う兵庫県内の居酒屋の店主も「みんなでテレビで阪神戦の中継を見ながら、勝てば祝い酒、負ければヤケ酒を飲んでいただくのがこれまでの日常風景。ですが20時前までに店を閉めなければならないとなると、テレビ観戦も6回か7回で強制終了。これじゃお客さんが集まるわけがありません。期待値の高いシーズンだったのに…。優勝が決まるであろう秋になったとしてもこの状況が劇的に好転するとは思えません。お客様も感染を怖がっていますし」と今からタメ息をつく。

 コロナ禍が長引けばV決定の瞬間を酒場で祝うという最高のシチュエーションも“自粛”となる可能性もあり、夜の街は気が気ではない。さらには「ビールかけはどうなるのか?」という何とも気の早い声まで聞こえてきた。 

 収穫の秋へ向け、早くも様々な思いを交錯させるナニワの虎党たち。楽観するにせよ悲観するにせよ、何かとせっかちなのは生まれ持った悲しい性なのか。矢野阪神の16年ぶりVと、一日も早いコロナ禍完全終息を今は祈りたい。

【昨季優勝チームの対応】

 昨年、セ・リーグ優勝を決めた巨人は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、恒例となっていたビールかけや祝勝会を自粛し、オフの優勝旅行も取りやめた。パ・リーグを制したソフトバンクも優勝旅行を取りやめ、代わりに商品券を配布。優勝パレードも中止した。