今年の日本シリーズもソフトバンクが4勝0敗と巨人を寄せつけず、4年連続の日本一に輝いた。ソフトバンクの強さばかりが際立ち、何もさせてもらえず、2年連続の4連敗を喫した巨人に、イラ立ちを覚えたセ・リーグのファンも多かったのではないか。これで日本シリーズはパが8年連続で制し、交流戦の成績でもパが圧倒している。一体、どうしてこうなってしまったのか。緊急検証の第1回、本紙評論家・伊勢孝夫氏の見解は――。

【巨人惨敗・セはパに勝てないのか①:伊勢孝夫】私の4勝2敗でソフトバンクとの予想は外れたが、すべての面で両チームには差があった。第4戦では初回に巨人が今シリーズで初めて先制したのに丸、岡本が続けず、あと1点が取れない。千賀やムーアと比べて和田は140キロそこそこで、キレはあってもついていける。だからこそ6番の中島は14球も粘ることができた。巨人にとっては追加点を奪うチャンスだったが…3、4、5番がまるっきりダメ。1、2番の出塁率も悪く、主軸が一番仕事をしないといけないのにできない。この日は初回がすべてだったと思う。

 CSを戦ったソフトバンクと、14日にレギュラーシーズンを終えた巨人では調整過程に差があった。去年の対戦経験に加え、ビデオを使って十分に対策も練ったことだろうが、実際に打席に立ってみて想像以上にすごさを感じたはずだ。

 若い選手にしても重信、岸田、松原はスイングスピードがソフトバンクの牧原の半分くらい。これで鷹投手陣を打ち崩すのは宝くじを当てるようなもの。打者はいくらでも振り込むことはできるし、振った分だけスピードは上がる。振りすぎて死んだ選手はいないし、小兵の牧原だって二軍にいた当時から相当に振り込んでいる。野球はパワーの差ではないと思っていたが、投手も野手もパワーの差があるのかな、と考えさせられた。

 8年連続でパ・リーグが日本一になった。セ・リーグを圧倒する理由はどこにあるのか? いい投手がいい打者を育て、いい打者がいい投手を育てる。パにはソフトバンク以外にも、日本ハムの有原に上沢、オリックスの山本と山岡、楽天の則本昂に松井ら球の速い投手がたくさんいる。モイネロほどすごい中継ぎもセにはいない。シーズンでそういう投手としのぎを削り、彼らを打つために努力し、厳しいフォークにも体が止まるようになる。巨人の投手なんかじゃ屁でもないだろう。

 打者にしても柳田だけでなく、オリックスの吉田正、楽天・浅村らレベルが高く、特に吉田正なんかすごいスイングをする。DeNA・佐野や梶谷、ヤクルトの青木なんかと全然違うし、栗原、中村晃の方が丸よりスイングは速い。彼らを抑えることでリーグ全体の投手レベルが上がる。ヤクルトであれだけ打っていたバレンティンがパで打てなくなったのはそういうことだ。

 近年はソフトバンクの強さが際立ち、素材の違い、育成環境の部分で差がついている。特に素材の面は大きく、千賀にしても入団時から140キロ台の後半は投げていた。140キロが数年で150キロを投げられるわけではない。打者と違って投げれば投げるほど速くなるというものではなく、素材を見いだすスカウティングも重要だ。

 セの顔ぶれを見ると、しばらくはパの時代が続くだろう。素材なら阪神の藤浪あたりが160キロ台の剛速球を武器に12勝~13勝できるようになれば一番いいし、全体の打者のレベルアップにつながるのだが…。そういう選手に出てきてもらいたい。
(本紙評論家)