阪神ブルペンの意識を変えた藤川球児の「黒いグラブ」

2020年10月17日 05時16分

藤川の黒いグラブには火の玉守護神の探求心が詰まっている

 引退行脚中に置き土産を――。今季限りで現役を引退する阪神・藤川球児投手(40)が16日のヤクルト戦でベンチ入りこそ外れたが引退表明後初めて聖地・甲子園での一軍公式戦に臨んだ。残り20試合、各地で有終の美を飾ることになるが、猛虎の大功労者にはこの間の〝最後のひと仕事〟に大きな期待が寄せられている。

 現役22年のうちNPBで19年。すでに15日には今季最後となったナゴヤドームでの中日戦で試合終了後、主催である中日球団の粋な計らいで場内を1周してファンにあいさつする即席セレモニーも行った。今後も一軍に帯同し、登板の有無とは無関係に次週23日からは東京ドームでの巨人3連戦、30日からは横浜スタジアムでDeNA3連戦、来月7日にはマツダスタジアムで広島戦と敵地ファンからも「最後の雄姿」への期待は高い。

 そんな藤川はチーム内から「最後のご奉公」を切望されている。それは「現在の投手、一人ひとりのクセを指摘してほしい」という身内だからこそ言い合えるもの。もちろん、2人の投手コーチを中心に日々、弱点につながりかねない個々のフォームやしぐさにはチームとしても目を光らせているが、他ならぬ藤川自身が長い現役生活で人知れず力を入れてきた部分でもあるからだ。

 長年、藤川から使用する用具やパフォーマンスにまつわる相談をされてきた球界関係者は「藤川投手がここまで長く現役を続けることができた理由は、ひとえに彼が自分の能力におごることなく、常に『本当にこれで大丈夫か?』という疑問を絶やさない研究熱心さがあったから」と語る。

 そんな探求心は2016年から使用を開始した黒いグラブにも表れている。こだわったのは色だ。その理由は「グラブに入るシワが打者に最も見にくい色だから」という結論から導きだしたもの。具体的には「セット時や投球時に打者へ投げこむ際のグラブへのシワの入り方ひとつでも球種はバレる可能性があると。だからナイターなど照明で照らされても、最もグラブに入るシワが判別しにくい色は何か」というのが、黒を選んだ動機につながっている。

 虎のブルペンでは、そんな藤川のプロ意識の高さに共感する中継ぎ投手は少なくない。実際にその理論に共鳴し、能見、桑原、岩貞、スアレス、望月ら、今ではブルペンスタッフの多くがグラブを黒にしている。また藤川は今季だけでも、中継ぎに転向した岩貞や二軍調整中だった藤浪にアドバイスを送って試合で覚醒させた実績もあり、影響力は絶大だ。

 野球人生最後の〝一軍昇格〟となった15日の試合後には「監督の起用法を見ても必死に勝とうとする姿をすごく感じる。選手たちもそれに応えようとしているし、相手チームとしのぎを削っているから。やっぱり勝負のなかで生きてきた人間。力になりたかったなと」とコメントを残した。培ってきたノウハウ伝授が猛虎への置き土産になるのであれば、それは藤川本人にとっても本望のはずだ。