先日、イーロン・マスク氏率いる話題のSpaceXのIPO(新規株式公開)に申し込んだ。「IPO」とは、それまで一部の投資家しか購入できなかった未上場企業の株式が、一般の投資家にも広く公開されることを指す。結果はあえなく落選。落選のお知らせを読みながら、ふと思った。宇宙で酒を飲んだら、人はどうなるのだろう?と。

 現在、宇宙飛行士の飲酒は安全上の理由から原則として認められておらず、本格的な研究データはほとんどない。無重力では体液の分布が地上と変わり、平衡感覚も乱れやすい。そこにアルコールが加われば、判断力や作業能力がさらに低下する可能性があるためだ。なお、「宇宙では酔いが2倍になる」という説もあるが、現時点でそれを裏付ける科学的な証拠は確認されていない。

 もう一つ興味深いのが、「無重力で酒を造ったら味は変わるのか」という疑問である。

 最近の研究では、微小重力環境を再現した実験で、ビール酵母の増殖や発酵速度が変化し、香り成分の生成にも違いが生じる可能性が報告されている。つまり、同じレシピで仕込んでも、宇宙と地球では異なる風味の酒になるかもしれないのだ。

 現在、「獺祭」で知られる株式会社獺祭(旧・旭酒造)は、2050年の月面醸造を目標に「DASSAI MOON」プロジェクトを進めている。第一歩として、国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟で、月面重力を再現した環境下での日本酒醸造試験に挑んだ。もしその挑戦が成功すれば、月で醸した日本酒は「地球では再現できない味」になるに違いない。宇宙開発はロケットだけでなく、日本酒の未来まで変えようとしているのだ。

 ロケットや人工衛星ばかりが宇宙開発ではない。そう遠くない将来、宇宙でも文化が生まれ、祝いの席ができ、やがて乾杯の習慣も持ち込まれるだろう。火星で最初に交わされる乾杯はビールか、ワインか、それとも日本酒か? その答えは、私たちが想像しているより早く分かる日が来るのかもしれない。