久しぶりにジワッと泣ける大人の恋愛映画を見た。タイトルは「平場の月」。かつて同級生だった2人が、それぞれの事情で独身に戻り、再び出会って付き合うようになる。派手な演出がない分、主人公たちの心の繊細な動きが見て取れるフランス映画のような静かな作品だった。
劇中、何度も出てくるのが居酒屋や家での酒を飲むシーン。2人は飲みながら、昔を懐かしみ、徐々に距離を縮めていく。酒飲みなら誰しも分かると思うが、酔うにつれ、忘れていた記憶がふとよみがえることがある。実はアルコールには、「過去の記憶や感情を呼び戻しやすくする」という側面があるのだ。
これは脳の働きと関係している。アルコールは脳の前頭葉に作用し、不安や緊張をやわらげる。前頭葉は感情や行動をコントロールするブレーキ役も担っているため、その働きが緩むことで、普段は抑え込んでいる記憶や感情が表に出やすくなると考えられている。つまり、「酒を飲むと昔を思い出す」という感覚は、単なる気のせいではないのだ。
実際、心理学には「状態依存記憶」という考え方がある。これは、ある心理状態や環境で経験したことは、同じような状態で思い出しやすくなる現象だ。例えば、若い頃によく飲んでいた酒を久しぶりに口にした瞬間、当時の恋人や店の空気感まで鮮明によみがえった経験はないだろうか。私はコークハイを飲むと、瞬時にやんちゃをしていた女子大生時代を思い出す。そう、記憶は単なるデータではない。感情や空間、匂いと深く結びついて保存されているのだ。特に酒は、味覚や嗅覚、店の雰囲気、人間関係と密接に絡むため、「記憶の引き金」になりやすい。「平場の月」では、それが見事に表現されている。
酒を飲みながら、愛おしい人と昔を語る。何気ない一杯の中で、心の奥底にしまい込んでいた感情や思い出が少しずつ浮かび上がる。「平場の月」に繰り返し描かれる飲酒シーンには、そんな「大人の記憶装置」としての役割があるのかもしれない。












