人はなぜ、桜を見ると酒を飲みたくなるのか?

 桜が散り、山吹や藤を見て、「きれいだな」と思っても積極的に酒を飲もうとは思わない。そう、桜ほど酒欲をそそらないのだ。実はこれにはいくつかの理由がある。

 まず大きいのが、桜のピークの短さだ。満開の状態は長くても1週間ほど。だからこそ「来週でいいか」とはならず、「今日、花見をしなくちゃ」となる。この桜ならではの無言の圧力が、飲みたい衝動を後押しする。

 そして、心理的要素もある。人は「今しかない」と感じると、価値を実際以上に高く見積もる傾向がある。限られているほど欲しくなる、いわゆる「希少性の効果」だ。桜の見頃の短さは、このスイッチを強く押す。

 加えて、周囲の雰囲気も無関係ではない。公園には人が集まり、ニュースやSNSでも花見の様子が流れる。こうした環境に置かれると、人は「自分も同じことをしなくては」と感じやすくなる。いわば「同調の力」だ。桜の季節は、日本全体がどこか浮き足立つ。

 桜の「散る美学」が、日本人の美意識に合致するというのも大きな要因の1つ。短い期間に神々しいまでの美しさを魅せ、一瞬にして散ってゆく。そんなはかなく、潔い姿に我々日本人は心を打たれる。そうした感情の揺れは、理性よりも情緒を優位にする。言い換えれば、桜の下では「飲んでもいいか」と自分を甘やかしやすくなるのだ。他の花ではこうはいかない。

 ちなみに、関東以西では既に桜は散ってしまったが、東北では終盤、北海道ではこれからが見頃となる。まだまだ花見酒が飲み足りないという人は、桜酵母で醸した「勲碧 純米吟醸 桜酵母 五条川桜」(愛知県・勲碧酒造)や、「さくら酵母ビール」(秋田県・秋田あくらビール)を持参で北海道を訪れるのも一興。「酒なくて何の己が桜かな」という句があるように、酒がなくては桜の魅力は半減する。そう、酒と桜の関係は切り離せない関係なのだ。