すべての漫画が自分に合うわけではない。TAJIRIはそう話す。「みんなで動いていくような展開は、少し入りにくいんです」。多くの読者を引きつける作品であっても、自分の感覚とは少し違うと感じることはあるという。

 加えて、作品のテンポや情報量によっては、自分のペースで読み進めにくいこともある。「情報が多くて、追いきれない感じがするんですよね」。読み進めるうちに引き込まれるというよりも、途中で止まってしまうことがある。「読んでて疲れちゃって、もういいやってなることがあるんです」。作品の良しあしではなく、あくまで読み手としての感覚の問題だ。

 この違いは、物語のつくりにも関係している。中心がどこにあるのか、誰の物語なのか。「複数で展開していくと広がるんですけど、その分、分かり方が変わってくることもある」。視点が増えることで見え方も変わる。TAJIRIにとっては、物語がどこに向かっているのかが見えやすい形の方が入りやすい。

 個が前面に立つ作品には引かれる。「北斗の拳は最後まで読んだんです」。誰が中心で、何を背負っているのか。その軸がはっきりしているほど、物語として入りやすい。「一人で戦ってる方が分かりやすいんですよね」。展開の派手さよりも、人物の立ち方が判断の基準になる。近年の作品全体に対しても距離を置くことが多く、「最近の漫画はあまり読まないですね」。年齢や時代の問題ではなく、描かれている構造や価値観が自分の基準と合うかどうかで選んでいる。「はやってるかどうかは関係ない」。自分の中で成立するかどうかが大きい。合うものと合わないもの。その違いははっきりしている。チームで進む物語か、個で立つ物語か。情報を積み重ねる形か、軸を絞る形か。その差が、そのまま読み手としての距離になる。「合わない理由がはっきりしてるんです」。選ばない基準もまた、自分の軸になっていく。

 TAJIRIにとって漫画は、流行や評価で選ぶものではない。自分の中にある基準に合うかどうか。その判断がすべてだ。何が合うか、何が合わないか。その輪郭が、そのまま価値観を形づくっている。