時は令和7年。上野国(現在の群馬県)と武蔵国(埼玉県)を隔てる坂東太郎(利根川)のすぐそばに“信濃の雄”が出城を築いた。そこから北に2里(約8km)進めばそこは下野国(栃木県)、東に4里で常陸国(茨城県)。国境がぶつかり合う同地はいよいよ群雄割拠で、合戦の火ぶたは今にも切られそうな状況にある。
激戦区・埼玉県まであと2km――。昨年11月28日、群馬県邑楽郡明和町にオープンしたスーパーマーケット「TSURUYA明和店」は流通関係者に大きなインパクトを与えた。
「長野県小諸市に本社を構える『TSURUYA(以下ツルヤ)』は県内37店舗を持つ“信濃の雄”。2020年に前橋南店を出店して群馬に初進出すると、少しずつ拡大して明和店は6店舗目になります。しかもその場所がコストコ群馬明和倉庫店に隣接しており、国道122号線で南に下れば約2kmで、ヤオコーやベルクが競争を繰り広げる埼玉県羽生市という県境だからです」(流通ウォッチャーの渡辺広明氏)
人口約732万人。車社会でロードサイド型スーパーが乱立する埼玉県はヤオコー(県内店舗数106店、本社は川越市)、ベルク(同82店、鶴ヶ島市)、マミーマート(同53店、さいたま市)といった同県発祥のチェーンが異様な強さを誇るほか、OKやイオン系のビッグ・エー、業務スーパーもしのぎを削る。
そんな激戦区の目と鼻の先にオープンしたツルヤとはいったいどんなスーパーなのか。渡辺氏と現場取材すると圧倒的な個性が浮かび上がった。
まず挙げられるのが、プライベートブランド(PB)商品の充実だ。信州産の果物を使ったジャムやドライフルーツが「ツルヤオリジナル」と「ツルヤプレミアム」の2種類で展開されている。ほかにも信州ワイン、信州みそ、信州そばと伝統的な郷土食がほとんど網羅されている。とはいえ、PB一色に染めるのではなく、メーカー商品(いわゆるNB)、地元企業の商品を2‥6‥2の比率で置いて、客の選択の幅を広げている。
生鮮3品(青果、鮮魚、精肉)の中では青果の充実ぶりが際立つ。明和店では入り口から突き当たりまで進んでもなお野菜売り場が続くほど。みずみずしいフルーツや産地契約栽培の野菜がカラフルに並ぶ様子は圧巻。カットされたルッコラにローストビーフを盛り付ければ、あっという間にオシャレなサラダが完成する。
「こうした小粋な品揃えは別荘地軽井沢で育まれたところが大きいと思いますね。実際にオリジナルドレッシングなどはお土産ニーズも高い。また、陳列も非常に丁寧でEDLP系(=Every Day Low Price)でよく見られるジャンブル陳列も採用していませんでした」
買い物のしやすさという点では、通路の広さも特筆に値する。ショッピングカートを押す人が複数いたとしてもゆっくり安心して買い物ができるよう徹底されているのだ。インストアベーカリーを備えたパン売り場には人だかりができていた。
また、接客レベルも非常に高い。「常に誠意を持っていきいきとお客さまに応対する」という企業理念が浸透しており、レジが多少混雑していたとしても「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」の2回のタイミングでお辞儀を欠かさない。
ツルヤのみならず、バロー(岐阜県多治見市)など地方発のスーパーが首都圏へ進出する動きは加速している。その理由について渡辺氏はこう話す。
「第一に多くの地方都市では人口減少と高齢化が進み、既存エリアだけでは売り上げ拡大が見込めなくなっているので、商圏拡大するしかないという事情があります。同時に、首都圏でも地元密着、高品質の独自商品という“地方品質”に対して潜在的ニーズがあり、地方発のスーパーはそうしたブランド価値で食い込んでいこうとしている」
物価高で生活が苦しくなる中、安さは正義と言えよう。だが、安さだけが正義ではない。買い物とは未知の商品と出合う喜びをも含む行為で、いろいろなスーパーがあるからこそ私たちの暮らしを豊かにしてくれるのだ。
☆わたなべ・ひろあき 1967年生まれ。静岡県浜松市出身。「やらまいかマーケティング」代表取締役社長。大学卒業後、ローソンに22年間勤務。店長を経て、コンビニバイヤーとしてさまざまな商品カテゴリーを担当し、約760品の商品開発にも携わる。フジテレビ「Live News α」コメンテーター。Tokyofm「ビジトピ」パーソナリティー。


















