マーラータン(麻辣湯)は女性にとっての家系ラーメンであり二郎でもある――。とっぴな主張に見えるかもしれないが、流通ウォッチャー・渡辺広明氏(58)は真剣なまなざしでそう語る。麻辣湯ブームを作り出した中国チェーン「楊國福(ヤンゴーフー)」と日本発の「七宝麻辣湯(チーパオマーラータン)」を食べ比べ、麻辣湯のリアルを取材した。
麻辣湯とは中国・四川省で生まれたスープ料理で、花椒(ホワジャオ)の「麻(マー)」と唐辛子の「辣(ラー)」を組み合わせたしびれと辛さが特徴だ。火鍋に近いが、好きな具材を選んでひとりずつ丼で食べるB級グルメで、今では中国全土にチェーンが広がっている。
その筆頭「楊國福」を立ち上げた楊氏は中国東北部の黒竜江省出身だが、味の改良とフランチャイズで店舗を拡大し、現在は海外10か国に7000店以上を展開する。日本には2018年に進出して20店を構える。
「22年ごろから若い女性の間で麻辣湯ブームになっていましたね。とはいえ私は辛いものが苦手なので今日まで傍観していました。まったく辛くないスープが選べたとは…、もっと早くチャレンジすれば良かった(笑い)」(渡辺氏)
10月某日の平日午後3時、池袋東口の「楊國福」を訪れると店外に行列こそなかったが、店内は女性客だけでほぼ満席。明らかに場違いな渡辺氏と記者は注文方法も分からぬまま前に並ぶ女性を見よう見まねでショーケースの具材をボウルに入れてみる。肉も野菜も選び放題で100グラム=400円。計量して1000円以上になると好きな麺(80グラム)がサービスされるそうだが、250グラムがどれくらいなのかが分からない…。
「アナタ、足りない、80グラム、あと80グラム!」
中国人の女性店員にボウルを突き返された渡辺氏がようやくクリアすると今度は「麺とスープ、選べる。どうする?」と畳みかけられた。
注文を済ませ2階席へ上がる。見渡す限り女性、女性、女性。紙エプロンや取り皿、レンゲなどはセルフサービスで、砂糖や黒酢、麻油、ニンニクなど味変を楽しむためのトッピングコーナーも豊富だ。
さて、麻辣湯ブームの理由を調べると、①好きな具材を自由に選べる高いカスタマイズ性、②インスタ映えすること、③野菜やきのこや春雨でヘルシーであることが女性にウケていると説明されるが、現実はどうなのか?
結論から言おう。提供されたマイ麻辣湯の写真を撮っていたのはわれわれ2人のオジサンだけだった。そして、春雨よりも刀削麺や牛すじ麺、米麺をガツガツと食べている女性のほうが圧倒的に多かった。ほぼラーメン屋なのである!
「国民食ともいわれるラーメンですが、来店客を分析すると一般的に男性比率が高い。特に濃厚さが際立つ家系ラーメンや二郎系ラーメンはその傾向が顕著です。長らくラーメン業界では1000円を超えると売り上げが下がる“1000円の壁”が存在するといわれてきました。ただし、このところ物価高の影響もあり、今では何かトッピングをすれば1000円を超えるのが普通になった。麻辣湯なら自分の好きな具材を中心にできるし、ここでは人の目を気にせず思う存分食べられる。この意味で女性にとっての家系ラーメンであり、二郎系でもあるのではないか」
実際にトッピングを山盛りにして2400円以上(具材600グラム=二郎系の野菜マシマシがこれくらい)の麻辣湯をおいしそうに食べる女性客もいた。「昨日は小辛にしたんだけど、今日は…」なんて会話も耳にした。
続けて訪れたのは“ラーメン王”石神秀幸氏が手がける「七宝麻辣湯」。全国27店舗で、1号店のオープンは07年と日本での歴史はこちらが古い。
ジャズが流れる店内はオシャレな雰囲気で「当店のご利用は初めてですか?」と声をかけてくれるなど初心者にもやさしい。基本の春雨とスープが620円でトッピングは1グラム3・1円。ショーケースにはかりが置いてあるので確認しながら選ぶことができるし、注文時に肉や海鮮などのトッピング、辛さや中華麺への変更が可能だ(※一部店舗は量り売りではなく固定メニュー)。
ここでも0辛(無辛)を選択した渡辺氏が春雨をすすりながら話す。
「七宝麻辣湯のほうが洗練されているというか、日本人の好みになっているような気がしましたね。薬膳っぽい感じがするしすべてが上品。あえてラーメンで言うならダシ重視の淡麗系。私は『楊國福』みたいにインスタント麺でいいしジャンクに食べたい派ですけど、違いが明確になって面白かった」
男性客もいたがやはり女性が9割で、学校帰りの女子高生がモリモリと食べていた。二郎系ラーメンの野菜はもやしとキャベツだが麻辣湯なら好きなものだけを食べられる。一度くらい“女子の二郎”を試してみるのもいいかもしれない。















