春季キャンプが行われているMLB各球団のクラブハウスが、野球ではない「USAコール」で揺れた。メジャーリーガーたちが叫び、ハイタッチし、走り回る――。きっかけは「ミラノ・コルティナ冬季五輪」で輝いた男子アイスホッケー米国代表の金メダル。米全国紙「USA TODAY」によれば、カブスやジャイアンツを含む複数球団で同じような光景が広がり、その熱が今度は「LA28(2028年ロサンゼルス五輪)」へ向かっているという。国のために戦う高揚が、野球選手の胸にも火を移した。

 象徴はカブスのアレックス・ブレグマン内野手(31)だ。「国のためにプレーする気になれなかったら、何が燃え上がるのか分からない」と口にした。WBC米国代表のノーラン・マクリーン投手(24=メッツ)も「国のためにどれだけ懸命に戦ったか。それが気持ちを奮い立たせる」と続く。さらにカブスのピート・クルーアームストロング外野手(PCA=23)は「僕たちにも金メダルを狙えるチャンスが来た」と言い切った。

 注目すべきは、それぞれのメジャーリーガーたちが〝次の夢〟を語りながら、同時に〝今の戦場〟も再定義している点だ。マット・ショウ内野手(24=カブス)は「今、WBCは私たちにとってオリンピック」と言い、カイル・シュワーバー外野手(32=フィリーズ)は「僕たちにとってはミニオリンピック」と表現した。WBCが五輪の代替だった時代から、2年後に迫ったLA五輪への出場が徐々に現実化する時代へ――。明らかに空気が変わり始めた。

 ただし現実は甘くない。LA28にMLB選手が出場するには、労使の「最後の鍵」が要る。暫定案はオールスターブレイクを延長し、選ばれた選手が7月13~19日(現地時間)の6日間、6チームの五輪トーナメントに参加する設計。オールスター戦は例年通りの日程で行い、開催地はサンディエゴ、サンフランシスコ、ラスベガスが候補とされる。残るは選手会の承認だ。要するに、夢は「制度」とシェイクハンドしない限りグラウンドに降りてこない。

 さらに、WBCが別の意味で重くなる。米国以外の上位2チームが五輪出場権を得る仕組みが絡み、開催国の米国は自動的に枠を持つ。つまり、米国はWBCで〝勝つため〟に集まる一方、他国は〝勝つことが五輪への切符〟になる。WBCが「世界一決定戦」であると同時に「五輪予選」の顔を持ち始める。ここに熱の種類の違いが生まれる。

 スターの言葉は、どれも純真無垢だ。ブライス・ハーパー外野手(33=フィリーズ)は「胸に『USA』を掲げ、自分よりも大きなもののためにプレーする。これ以上はない」と言い、ムーキー・ベッツ内野手(33=ドジャース)は「絶対に出たい。信じられないほどの栄誉」と即答した。だが、この熱は善意だけでは回らない。五輪について「究極のマーケティング機会だ」とコミッショナーのロブ・マンフレッド氏(67)は語っており、MLB側は国威発揚の顔を持ちつつビジネスとしても勝ちにいく。WBCを育て、次に五輪でも〝ワールドクラスの莫大な放映権料〟を取りにいく――。国のため、競技のため、そして市場のため。三つの目的が同じ方向を向いた瞬間に、話は一気に進む。

 火に油を注いだのが、ドジャースのデーブ・ロバーツ監督(53)だ。五輪監督への意欲をにじませ「国のために貢献できるなら光栄」と語る。LA五輪で野球の舞台となるのはドジャースタジアムだ。MLB王者の本拠地が、そのままUSAのホームグラウンドになる構図は絵になる。

 だが同時に、ここでも問われるのは勝敗ではなく調整だ。誰が出るのか。どこまで球団が許すのか。怪我のリスクをどう織り込むのか。選手会の承認とは〝夢の許可証〟であると同時に責任に対しての署名でもある。

 結局、論点は「五輪か、WBCか」ではない。五輪が来れば、WBCは小さくなるのか――。むしろ逆だ。五輪が〝本家〟の輝きを持つほど、WBCは〝選考と予選とリベンジ〟を背負って色濃くなる。シュワーバーが言うように「今こそ国を代表する時」なら、その舞台は二つに増える。金メダル熱が倍増するのか、負荷が倍増するのか。そしてLA28は夢の到達点か、それとも新しい火種か――。答えは選手会の一票が握っている。