【山口敏太郎オカルト評論家のUMA図鑑#558】イングランド北西部を流れるマージー川は、都市リバプールに大きな河口を広げる全長112キロメートルほどの川である。翻訳すると「境界の川」を表すその名前のとおり、かつてマーシアとノーサンブリアという古代王国の国境であったことを示しているこの川は、何世紀にもわたって歴史的に重要な境界として知られてきた。

 そうした重要な歴史の一部を担ってきたこの川で、2011年5月25日に奇妙な生物が目撃され、しかも写真に収められたというのである。

 その日の朝9時ごろ、写真家マーク・ハリソンは水面に浮かんでいる謎の生物を発見した。彼はそれが何なのかよく分からないまま眺めていると、その生物は水中に消えていき、それから数分たって潮の流れに逆らうようにハリソンのいる上流へ接近してきたのだ。

 その後も生物はゆっくりと泳ぎ回り、しばらくして姿を消してしまった。ハリソンはその様子を数枚の写真に収め、当初は「アザラシかもしれない」と思い公開することをためらっていたが、何度見返してみてもアザラシには見えないと判断し、とうとう公開に踏み切ったのである。

 問題の写真を見てみると、開いた口先を水面に出しているような姿や、うねった体の一部が水面に浮き出ているような姿で収められている。ただ、映像ではないこともあり、これら写真のみによる特定は困難を極めた。

 一説として浮上したのは、「ウバザメ」ではないかというものだ。ウバザメは世界各地の海に生息するサメであり、動きは緩慢で非常におとなしい性質を持っている。撮影されたその当時、その周辺に大挙して現れていたという状況であったことから、川を上ってきたウバザメという可能性が考えられたのだが、一方でウバザメの身体的特徴が見られないという指摘もある。

 そこで最も有力視されたのが、「ネズミイルカ」を捉えたものではないかという説だ。ネズミイルカは、主に海洋の沿岸部や河口付近に生息しており、こうした性質から別名「港のイルカ」とも呼ばれている。

 シーウオッチ財団の目撃情報担当官ダニエル・ギバス氏によれば、ネズミイルカは通常のイルカとは違い水中から飛び出すことがほとんどなく、発見することが困難な非常に珍しい生物であるという。

 実際、ネズミイルカはリバプール周辺の海域に多く生息しているにも関わらず、一般人による目撃はほとんど聞かれない。そのため水面に波紋を起こしたとしても単なる波と混同され、またその姿を一目見てイルカだと判断することができない可能性が高いのだ。

 ただネズミイルカは背びれを持っており、これが水面に小さな波紋を起こす要因となっているのだが、問題の写真を見てみると背びれを確認することができない。仮に何らかの別の生物を捉えた写真であったとしても、本当にネズミイルカだったのかという点については疑問の声もある。

 冒頭にも触れたが、マージー川は境界として重要な役割を持っていた。境界と言えば、妖怪などといった異界の存在が現れるポイントにもなり得る場所である。マージー川の怪物も、そうした境界を通じて現れた未知の生物だったのだろうか。