【元局アナ青池奈津子のメジャー通信】ここ数日、取材の合間に朝の散歩に出かけるのがとても楽しい。アリゾナのキャンプ地キャメルバック・ランチ球場の三塁側にあるドジャースの施設から、一塁側のホワイトソックスの施設との往復15~20分。ドジャースのクラブハウスでの取材時間が終わると記者席でコーヒーを入れ、パーク内の遊歩道で両サイドの練習フィールドを眺めながら歩いたり、誰もいない本球場を通り抜けたり…。わずか数歩でカオスなドジャース側から静かな空間に移り変わり、フレッシュな朝の空気を吸っている。
「失敗を完璧にすること」
そんな目が覚めるコメントで今季スタートしたのが、ジェシー・チャベスだ。数年前と変わらぬ帽子の上からフードをかぶるスタイルで、達観するようにクラブハウスで座っていた。
南カリフォルニア出身で母が17歳と若い両親の下に生まれた。ストリートで悪さをしないようにとスポーツ漬けの毎日を過ごしながら「将来はスポーツ選手か軍に入るのが父との取り決めだったが、自分にはミリタリーに入る勇気はなかったから、野球をやるしかなかった」(ジェシー)。すでに20歳の娘もいるベテランで、オフの家族との過ごし方や祖母の影響から趣味となったアンティークカーの話をしていたはずが、気がつけばすぐに野球談議に。
「僕の時代は、今ほど早く大リーグに上がれなかったから家族に多大なるサポートを受けたよ。あのころは自分で権利を勝ち取る、間違いを学ぶ、間違いから成長することを求められた。投手なら何百イニングと投げてから初めて大リーグ候補になれた。自分はそういった時代に生まれ、ドラフトから今に至るまで経てきた道があったからこそ、長くやってこられたと思う。今とは違うよ。今は才能があれば、すぐゴーサインが出る。自分が今、選手として、人間としてどこにいるとか、球場外ではどんな生活をしているのか、そういうものは全く関係ない」
だからこそジェシーは若手に「失敗を完璧にしろ!」と訴えるのだとか。
ただし「失敗するプロセスは理解しても決して失敗を受け入れないこと。理解は必要。その上で、それが最終結果ではない、自分はもっとできるのだと言い聞かせるんだ。失敗へつながった準備なりメカニックがあるはずだからそれを追求すればいい。知れば知るだけ失敗は最小限にできる」と力説する。
失敗を受け入れないという考え方は新鮮だと思った。
「このゲームは失敗の上に成り立っているからね。それが野球の美しさであり、難しさだ」
ジェシーにとっての転機は、何げないまな娘との会話だという。
「新人だった2009年、サヨナラ打を打たれたんだ。妻と娘と一緒に歩いていて、娘に何か言われて『人生いろんなことが起こるけど、手が泥で汚れてしまったら洗えばいいんだ。お父さんは今さっきシャワーを浴びて全てを洗い流したから大丈夫だよ。さあ、自転車をこいでホテルまで楽しく帰ろう』って言った時に、ふに落ちたんだ」
あれから15年。
「どれだけ人が見ていようと、ワールドシリーズだろうと、マウンドの上の自分の周りは静かなんだ。ホーム、自分の居場所だと感じる場所」
選手としては、今季が最後の挑戦。心ゆくまで、野球ができますように。
☆ジェシー・チャベス 1983年8月21日、カリフォルニア州サンガブリエル生まれ。2002年のMLBドラフト42巡目でレンジャーズに入団。パイレーツ時代の08年8月にメジャー契約を結び、カブス戦でデビュー。FAやトレードで移籍を繰り返し、今月に入ってホワイトソックスとマイナー契約を結び、今季限りでの引退を表明した。49勝63敗、77ホールド、9セーブ、防御率4・30。












