昨季38年ぶりとなる日本一に輝いた阪神は投打ともに充実した盤石の布陣で、2024年の球春を迎える。昨季のスタメンが大きく変わることはなさそうだが、ファンの間で度々論争となっているのが梅野隆太郎捕手(32)と坂本誠志郎捕手(30)の正捕手争いだ。球史にその名を刻む名捕手にして、名将・故野村克也氏の下で配球を学んだ本紙評論家・伊勢孝夫氏の見解は――。
【新IDアナライザー・伊勢孝夫】配球の読みに関しては、ノムさん(故野村氏)の下でヤクルトの打撃コーチを務めていた時に、それこそ気が狂いそうになるほど勉強したよ。カウント0―2に追い込むと、判で押したように外角へ「1球外す」バッテリーは今も昔も多いけど、あんまりそれは意味ないよなと俺は思ってる。そうすると「結局勝負球はフォークなんやろな」みたいに配球の意図を打者に読み取られてしまうんや。カウントを不利にしてまでするようなことやないってのが俺の意見や。
本題に入るけど、そういう意味で坂本は打者の意表を突いたリードがホンマにうまいんよ。特に内角の使い方がな。カウント0―2からでもインサイドにズバッと直球を投げさせて3球三振。そんなシーンを昨季は何度も見たわな。そうなると次打席以降でそのバッターはさらに迷うんや。「カウント0―2だから定石どおりに外角へ1球外してくる」的な〝固定観念〟が通用しないんやから。
もちろんこの手のリードは投手の制球がいいからこそ成立する。0―2からインサイドを狙った球が甘く入って打者に痛打されたら後で大目玉やもんな。阪神先発陣は村上、大竹、伊藤将、西勇とコントロールピッチャーが多い。岩崎、桐敷、島本ら救援陣もそうやな。
3年連続でゴールデン・グラブ賞を受賞した梅野も、依然いいキャッチャーよ。スローイングやブロッキングの巧みさは今も坂本を上回っている。だけど、制球力で勝負する投手が多い阪神のチーム事情なんかを考慮すれば今季も坂本の出番の方が多いんとちゃうかな。
坂本を見るたびに思い出してしまうのは西武黄金期を支えた名捕手・伊東勤。俺が近鉄の打撃コーチだった頃の話や。二死満塁で3―2のフルカウント。ウチのビハインドやったけど、長打が出れば一気に逆転できる程度の点差やったと記憶してる。打席には4番・中村紀洋。ここで伊東は中腰になってインハイのボールゾーンにミットを構えたんや。俺はベンチで「おいおい、振らんかったら押し出しで1点やんか」って面食らったよ。ところが紀洋はこれを空振り三振。これが響いて試合は近鉄の負けや。
伊東が意図したことを一晩中考えたけど、どうしても分からなくてな。翌日の試合前練習で本人のとこに聞きにいったよ。「おい伊東。一つだけ教えてくれ。なんであそこでボールゾーンで中腰で構えたんや? 見逃したら1点やんか」。「伊勢さんあそこはね、振るんですよ」。「振るんですよってお前。見逃したら…」。「振るんですよ。あそこは」
伊東は読み切ってたんやろな。紀洋の「自分が決める」っていう4番打者のプライドや「この状況で、まさか俺に対して内角勝負はないだろう」という思い込みを。そこを逆手に取られたんや。そんな伊東に坂本はよく似とるよ。
(本紙評論家)












