FA選手の移籍とそれに伴う人的補償を巡る問題がクローズアップされるたび、動向をワクワク楽しみつつ、いまだ「提言」が生かされてないことを寂しくも思う。

ソフトバンク・甲斐野央が西武へ、オリックス・日高暖己が広島へ越年移籍

 西武は11日、国内FA権を行使してソフトバンクへ移籍した山川穂高内野手(32)の人的補償として、甲斐野央投手(27)を指名したと発表した。侍ジャパンにも選出経験のある最速160キロ右腕の流出はそれだけで衝撃的だが、一方で西武が日米通算163勝のベテラン左腕・和田毅投手(42)を獲得候補に挙げていたことが判明。ソフトバンクを中心に球界は大騒ぎとなっている。

 和田がプロテクト漏れしていた事実や甲斐野で決着した経緯は記者として正直とても興味深く、今後も追いたいニュースだ。ただ今回取り上げたいのは、甲斐野や西川龍馬の人的補償で広島に指名されたオリックス・日高暖己(1月5日発表)ら、越年で移籍が決まった選手の境遇について。年が明け、キャンプの足音が聞こえる時期の移籍通告は、いいかげん遅すぎではないだろうか。

オリックスから広島へ移籍となった日高暖己
オリックスから広島へ移籍となった日高暖己

 FA宣言選手と獲得を目指す球団はNPB公示後に両者のペースで交渉を行い、場合によっては合意タイミングも調整できる。その後、2週間以内にリストを受け取った球団は合意公示を起点に40日以内に補償選手を決定する必要があるが、こちらも検討の時間は十分といえる。ただ両者が時を使えば使うほど、補償選手の移籍は遅くなり、今年の2選手のように移籍決定は越年となってしまう可能性が高まる。一方でFA宣言選手は移籍合意後は新シーズンへ向け、自分主導で計画通りに動くことができる。

 振り返ると山川のFA宣言は11月14日、ソフトバンクとの合意は12月21日だった。また西武にソフトバンクからリストが届いたのは、仕事納めの同25日だったという。これでは越年も仕方ない。広島は少し早く12月11日にオリックスからリストを受け取っていたが、決断はやはり越年となった。

 年明けに広島への移籍が決まった際、日高は「今はただびっくりしているというのが、率直な気持ちです」と驚きの声を発し、甲斐野は「突然のことではありましたが、ホークスには本当にお世話になりました」などとコメントした。甲斐野は自主トレ先に静岡へ向かう道中の通告だったという。多少の覚悟はあったかもしれないが、キャンプまで1か月を切った中での移籍には両選手とも翻弄されているだろう。

人的補償制度の改革を訴えた広島・長野久義

 FA人的補償による移籍が越年で決まったことは過去にもあった。記憶に新しいところでは、巨人が丸佳浩を獲得した補償として、2018年1月7日に広島への移籍が決まった長野久義外野手(39)の例がある。

 長野の場合は通告当時、自主トレ先の米ロサンゼルスにいた(※本人は極秘のつもりだったがこれで滞在先がバレてしまった)。「選手冥利に尽きます」と潔く移籍を受け入れた後は自主トレこそ続行したが、帰国後はキャンプ直前まで入団会見や引っ越し準備、周囲へのあいさつなどに追われていたのを間近に見た。

 その長野が広島移籍1年目の2019年オフ、いつになく真剣に「これは今だからこそ、僕が言うべきだと思いまして」と切り出したのが、人的補償制度に関する提言だった。

「今後の補償に選ばれる選手のためにも、通達のタイミングをもう少し早めてもらえたら。(FA合意の公示を起点に)40日以内というのは少し長すぎますよね。できれば年をまたがず、年内には決まるようなシステムになればいいなと」

2019年12月、当時広島の長野は人的補償制度の改革を訴えた
2019年12月、当時広島の長野は人的補償制度の改革を訴えた

 それに続く彼の言葉は、後の甲斐野や日高のような選手の出現を予言しているようでもある。

「僕の場合、正式に決まったのがアメリカに滞在中の日本時間1月7日。最初は『帰ってきてくれ』と言われたのですが、球団の厚意で向こうにとどまることを許してもらいました。でも若い選手の場合はそうはいかないケースも出てくるでしょう。トレーニング施設やホテル、練習相手の手配などをキャンセルして、帰国の航空券を手配したりするのは負担になります。おそらく練習どころではなくなる選手も出てくるでしょう。この制度で移籍する選手の立場について、もっと真剣に考えてもらえたら」

・広島・長野久義 FA人的補償制度改革を直訴

人的補償制度改革の声はなぜ高まらないか

 だが今もNPBのFA制度については権利を行使する選手の側にばかり日が当たり、人的補償制度については長野の提言以降も議論は止まっている。オーナー側、NPBだけでなく、等しく選手の権利を守るべき選手会の動きが見えないのもおかしい。

 FA補強を巡っては、獲る側も獲られる側もギリギリの勝負であることは承知している。交渉の裏側や苦労はさまざまな球団の関係者から聞かせていただいた。人的補償の時期問題に関しても「リスト外選手の契約更改状況」「身辺調査の時間」などの課題も聞いた。また人的補償制度は常に「獲られる側」にとって必要な制度であるので具体的な改革につながらない。どうすれば人的補償選手の移籍を早めることができるか、記者なりに諸課題をクリアするための以下条項を考えてみた。ツッコミどころは満載だが…。

①各球団は支配下選手と契約続行を希望する場合、毎年11月中の契約更改を目指す②FA宣言選手の獲得に乗り出す球団は交渉合意までにプロテクトリストを用意(契約未更改選手は28人のプロテクト選手に含める)③FA宣言選手との契約交渉、合意期限は11月末(期限を越えた合意の場合は人的補償なし=金銭補償を大幅増)④FA宣言選手の合意発表と同時に獲得球団は旧所属球団へリスト提出⑤旧所属球団は獲得球団の12月最終営業日までに補償選手を指名する

 FA移籍と人的補償を巡る真剣勝負はストーブリーグの華。戦力均衡のための人的補償制度に存在意義はあると考えるが、まずは移籍する選手の環境を整えた上で「獲った、獲られた」を心から楽しめる新制度を待ちたい。