【取材の裏側 現場ノート】「だから言うとるやんか、オマエ。ショートは打たんでもええって」

 2月の沖縄・宜野座での春季キャンプ。開幕遊撃の座を争っていた木浪聖也内野手(29)と小幡竜平内野手(22)は春の実戦でそろって上々な打撃成績を記録。岡田彰布監督(65)に「両者ともいいアピールをしてくれてますね」と水を向けたところ、少しイラだった表情でこう返された。

「7番・捕手と8番・遊撃はディフェンス最優先」。守りの野球を掲げ、チームの慢性的な課題だった守備難の改善に取り組んでいた指揮官は、明確なコンセプトをもって準備にとりかかっていた。昨季までの正遊撃手・中野は二塁へコンバート。そう都合よく「打てて守れる」新たなショートが現れてくれるわけがない――。岡田監督のそんな算段はいい意味で裏切られることとなった。背番号0に。

 開幕スタメンこそ小幡だったが、すぐにその座を奪い返したのが木浪。安定した守備力に加え、4月から打率3割を優に超える好成績で打線をけん引した。その頃、球場内を移動していた岡田監督を捕まえ「木浪は8番のままですか? 6、7番に打順を上げたりはしないんですか?」と聞いたことがある。当時の「7番・梅野」は打率1割台に沈む深刻な打撃不振。6番もレギュラー選手を固定できていない時期だった。

 だが、岡田監督は「そんなん変えへんよ、オマエ。あいつが(8番に)おらんかったらピッチャーがバントできへんやんか」とニヤリ。8番の木浪が塁に出る。9番の投手が手堅く次の塁に送る。そして「1番・近本」が木浪を生還させる。1番から9番までの打者を有機的につなげるキーマンは誰なのか? 4月の時点で指揮官の中で答えはもう出ていたのだろう。

 時間は少しさかのぼって、開幕直前の3月のオープン戦。その日のオーダーは「1番・近本」「2番・木浪」という並び。試合後の木浪に「この打順、久々だよね」と声をかけた。「キナチカ」「チカキナ」――。ドラフト同期で同学年の両者は1年目の2019年シーズンで1、2番のコンビを組むことが多かった。

 木浪は少しほほ笑み「この並びにこだわりがないって言ったらウソになりますよね。僕が塁に出て近本がかえす。それが一番やりやすい形なんで。どっちが1番でも2番でもいい。僕が9番で近本が1番でもいいんですよ」。

「キナチカ」改め「キナPチカ」の並びは今季、実に〝エモい〟形で復活した。木浪にとってもチームにとっても山あり谷あり。トータルでみれば悔しいことの方が多かった5年間だったと思う。だが、全てが報われる瞬間はもう目の前まできている。