「凍眠」が、未知の“酒ロマン”へといざなう――。液体による凍結機「凍眠」によって凍らせた日本酒が話題だ。火入れによる殺菌処理をしていない「生酒」を、搾りたてのまま瞬間冷凍するというのだが、一体何がどう違うのか。その魅力を深掘りしてみると…。

瓶詰め後に瓶ごと瞬間冷凍
瓶詰め後に瓶ごと瞬間冷凍
溶けはじめでも注げばサラッとしている
溶けはじめでも注げばサラッとしている

「凍眠」とは、マイナス25~30度に冷却したアルコール液の中に沈めることで、一般的な冷凍の約20倍のスピードで瞬間凍結させる「株式会社テクニカン」の特許技術だ。

 すでに食品には導入されているが、このほど日本酒に本格導入された。

冷却されたアルコール製剤に漬けると通常の20倍の速さで冷凍される
冷却されたアルコール製剤に漬けると通常の20倍の速さで冷凍される

 実はこの技術、液体に用いると、冷凍による膨張が極力抑えられ、しかも水分と他の成分の分離や味の劣化も防げることが判明。この特性が日本酒、特に火入れをしない「生酒」が抱えてきた“悩み”を解消し、新たなおいしさまで引き出すことができたという。

 生酒は搾りたてのフレッシュな味わいが魅力だ。酒屋にも「しぼりたて」などと称し陳列されているが、実は流通を経て生酒の味は少しずつ変わっているのが実情だ。

「ですから、酒屋に置いてある生酒も、蔵元から言わせると『本来のフレッシュ感とは全然違う』なんです。蔵元見学ツアーなどで“本当の搾りたて”を飲めば分かる。その味の違いに感動するんです」とは、テクニカンの常務取締役・前川達郎氏。

「凍眠」だと、液体の膨張が抑えられ瓶の破損がない。搾りたてを瓶詰め↓即瞬間冷凍できるうえ、飲む際も成分が分離せず均一に溶けていくから「溶けはじめから味わえる」(同氏)のだが、この「溶けはじめ」こそ「凍眠」でしか味わえない、スペシャルなものだという。

 キンキンに凍った生酒を水に浮かべる。3、4分もすると飲み口の所から溶けはじめるが「これが一般の冷酒にはない低い温度帯。“超冷酒”と言ってもいい、今までにないゾーンなんです」。

 早速飲んでみる。記者がいただいたのは「凍眠生酒」の開発に最初に携わった「南部美人」だ。トクトクと注がれる酒はみずみずしい。

 グビリとやると、キンとした冷たさも相まって、米のうま味、フレッシュ感がキリリと伝わってくる。そして喉を通過した余韻とともにフルーティーな香りが鼻にスッと抜けていくのがたまらない。これが“超冷酒”なのか…。

 前川氏が続ける。「さらに5分経過すると、まろやかになっていくんです。温度帯が上がるのと、1回開栓することで空気に触れるので味わいが変化していく。止まっていた時計の針が動き始めるわけです。まさに“生き物”ですよね」

“リアルガチ”な搾りたて生酒の「超冷酒ゾーン」から始まる味の変化を、杯を重ねて楽しめば、蔵元の心意気まで伝わってくるようだ。

「凍眠」の可能性はロマンとなって広がっていく。「お酒は『自然との戦い』だから、各年で米の出来や風土も違う。杜氏の出来栄えでも全然変わってくる。それを飲んだ人たちは記憶をたどるしかなかったが、今度は『〇年物』という記録ができるわけです」(前川氏)

 試用期間も含めてトータル5年ほどとあって、可能性の段階ではあるが「例えば、お子さんが生まれた時の凍眠生酒をずっと冷凍保管して、成人した時に開けて一緒に飲む」なんて楽しみ方もできるだろう。また、酒を寝かせて“飲み頃”になった瞬間に凍眠で凍らせることだってできるのだ。

 目指すは賛同する酒蔵を増やし、うまい生酒を、うまさそのままに世界に広げること。眠りから覚めた“酒ロマン”はまだ始まったばかりだ。

「トーミン フローズン」では“凍眠”した生酒たちがズラリと貯蔵されている
「トーミン フローズン」では“凍眠”した生酒たちがズラリと貯蔵されている
現在、全国26の蔵元で展開されている
現在、全国26の蔵元で展開されている
「トーミン フローズン」だけでなくECサイトでも購入できる
「トーミン フローズン」だけでなくECサイトでも購入できる

【現在、全国26の蔵元で展開】現在「凍眠生酒」は、南部美人や「獺祭」の旭酒造など全国26の蔵元(36銘柄)で展開している。横浜市にあるテクニカン直営店「トーミン フローズン」か、ECサイト【https://tominfoods.base.shop/】で購入可能だ。酒だけでなく「凍眠」によって瞬間冷凍された食品も販売している。