日本企業はイケてないのか――。世界的な景気後退が懸念される中、本紙おなじみの流通ウォッチャー・渡辺広明氏と早稲田大学ビジネススクールの長内厚教授が緊急対談を行った。ニュース番組「Live News α」(フジテレビ系)でコメンテーターを務める2人が「イノベーション」の本質を語りつくすと一筋の光が差し込んだ。

左から、渡辺広明氏、長内厚教授
左から、渡辺広明氏、長内厚教授

 ――世界に比べ、日本企業が成長できない要因としてイノベーションが進まないことが長い間、問題視されている

 長内厚(以下長内)イノベーションという言葉は「技術革新」と訳されることが少なくないので、多くの方は新しい製品やサービス、技術を創り出すことを思い浮かべます。でも、それはイノベーションの半分でしかありません。残りは何か。面白いものを作って、どうやって世の中に普及させるか、要するに人を説得できるかどうかも含めてイノベーションなのです。

 渡辺広明(以下渡辺)ということは結構、泥くさいイメージなんですね! 僕はコンビニのバイヤー時代からいろんな商品開発に携わってきたので、いいモノを作ったら必ず売れるわけじゃないというのは肌感覚でわかります。もちろん、いいモノを作ったほうが売れるチャンスは広がるからその努力はするんですけど…。

 長内 日本人は画期的な製品を作ることにたけています。スティーブ・ジョブズがソニーにあこがれていたのも有名な話です。問題はどのように売るかという戦略が欠けていて、お金の匂いがしないイノベーションにとどまっているところ(苦笑)。ちょっと歴史を振り返るだけでも液晶パネルに、太陽光パネル、リチウムイオン電池など日本企業は画期的なものを作ってきました。問題はその先にあったのです。

 渡辺 確かにそうですね。性能だけがすべてではないという意味では、1970年代のビデオ戦争を思い出しました。性能ではソニーのベータに分があったが、最終的には日本ビクター(現在のJVCケンウッド)のVHSが市場を制しましたよね。

ビデオデッキとテープ。普及に一役買ったのは…(写真はイメージ)
ビデオデッキとテープ。普及に一役買ったのは…(写真はイメージ)

 長内 はい。画質ではベータ方式でしたが、顧客のニーズに合致したのは2時間録画ができたVHSでした。セールス戦略でも興味深い違いがあって、パナソニックはビデオデッキというハードを売るために3本パックをおまけにつけたのです。お母さんのために映画ソフト、子供も欲しがるようにアニメ、お父さんのためには“お楽しみ”ですよ。

 渡辺 そこにエロビデオを使ったんですね! ちょっと今のご時世では考えられないけど、みんなが欲しくなる戦略として当時は的確だったということ(笑い)。

 長内 一方、ソニーはそうしたアダルトなものが健全なビデオ文化を妨げるとして、その戦略を採らなかったんです。この話はマンガ「係長 島耕作」にも出ていますよ。私が弘兼先生に話しましたから。

 ――どう稼ぐかを戦略的に考える重要性はわかりました。そのために日本企業はどう変わればいいのか

 長内 基本的なことですが、経営者は労働力(生産にどれだけの人員を投入するか)と資本(生産設備にいくら資金を投入するのか)を管理することが主な仕事です。これに対して、イノベーションの父と呼ばれるシュンペーターは、同じ労働力と資本の企業によっても収益に差が出ることに着目し、そうした企業能力をイノベーションとしました。

 渡辺 同業でも何か違う仕掛けをしているから、収益性が違うということですね。

 長内 その通りです。その仕掛けを考えるのは自分自身でなければなりません。経営学が机上の学問だと言われるのはわかりますが、逆に言えば大学生がフツーに読んでいる経営学の教科書を理解して自分たちの頭で考えることができれば、ほとんどの問題は解決できますよ。

 渡辺 企業ごとに置かれた状況も異なるから、絶対的な答えがないというのはすごくわかります。コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻が起こるなんてシミュレーションはできなくて当たり前なんだけど、想定外が起きてもいいような備えをしておかなきゃいけないし、柔軟な発想が求められる。最近は手堅い“答え”をくれるコンサルに任せてばかりの日本企業も多いけれど…。

 長内 ちょっと過度にコンサルに期待しすぎですよね(苦笑)。本質的には「ここから先はみなさんが考えることですよ」と言えるコンサルがいるといいですね。

 渡辺 はい。「おまえのオールを任せるな」ってTOKIOの歌じゃないですけど、やっぱり自分の頭で考えないと。ちなみにビジネススクールで学生を指導していて長内先生が感じることは?

 長内 自分の会社を何とかしたいという人たちがこれだけいるんだって驚きましたね。ガツガツした人は意外といるんです。まだまだ日本は大丈夫です!

 渡辺 良かった。僕も若い人と仕事をしていると元気をもらっています。一緒に頑張りましょう。

 わたなべ・ひろあき 1967年生まれ。静岡県浜松市出身。「やらまいかマーケティング」代表取締役社長。大学卒業後、ローソンに22年間勤務。店長を経て、コンビニバイヤーとしてさまざまな商品カテゴリーを担当し、約760品の商品開発にも携わる。フジテレビ「Live News α」レギュラーコメンテーター。

 おさない・あつし 1972年生まれ。早稲田大学ビジネススクール教授。京都大学経済学部卒業後、97年ソニー株式会社入社。主な研究領域は技術経営、経営戦略論。フジテレビ「Live News α」レギュラーコメンテーター。