〝悲願達成〟の可能性は――。フィギュアスケート男子で五輪2連覇を果たし、プロに転向した羽生結弦(27)が自身初の単独アイスショー「プロローグ」(4日、横浜・ぴあアリーナMM)を開催。満員となる7900人のファンを魅了した。一方で、クワッドアクセル(4回転半ジャンプ)の成功もあきらめていない。運動療法に詳しい早稲田大スポーツ科学学術院の金岡恒治教授は、大技の実現に太鼓判。さらに、あのレジェンドとの共闘を提言した。

 かねて羽生はクワッドアクセルを「唯一のモチベーション」と公言してきたが、初成功の称号をイリア・マリニン(米国)に譲った。4日のアイスショー後には「競技というレベルでは達成できなかったし、ISU(国際スケート連盟)公認の初めての成功者にもなれなかった。そういう意味では、終わってしまった夢かもしれない」と唇をかんだ。

 それでも、この日は競技会さながらの6分間練習でアップを行うと、2018年平昌五輪のフリーで演じた代表曲「SEIMEI」では、4回転サルコーやトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を3度着氷。プロ転向前と変わらない演技を披露し、2月の北京五輪では果たせなかった〝悲願〟の達成に期待を抱かせた。

 数々の歴史を塗り替えてきた羽生でさえも、クワッドアクセルの着氷は未知なる領域。この日は挑戦しなかったものの、金岡教授は成功の可能性が高まっているとの見方を示す。「北京五輪のときも惜しかったし、あとは立つだけという感じだった。これからプロとしてよりプレッシャーが少ない状況で自由にできる。おそらく今までは競技としていろんなルールの中でやってきたと思うので、いい方向にとらえれば無駄な動きを減らせると考えられる」と期待を寄せた。

 成功へのカギは〝滞空時間〟にある。もともと羽生の回転能力は世界最高峰。だからこそ、金岡教授は「滞空時間を長くさせる必要があるのかなと。約0・1秒とか延ばせると思う。ジャンプの瞬間に力をうまく下に伝えて、垂直方向に力を生み出せるかが大事。彼に言うような立場ではないが、例えば力を入れるときに、力を入れる方向と逆方向に意識を持っていくと力が入りやすいという使い方もある」と指摘した。 

 その上で、金岡教授はともに研究を行うこともある2004年アテネ五輪男子ハンマー投げ金メダルの室伏広治スポーツ庁長官とのコラボ案を提言。「室伏さんは筋肉をつけるだけじゃなくて、体を上手に使ってパフォーマンスを上げることを追い求めている。羽生選手の伸びしろという点では、筋力トレーニング、パワーアップ系のものはいろいろやっていると思うけど、体の使い方についてもいろいろ試してみてもいいのかなと。それに羽生選手は人類の最高峰の機能を持っている。もし羽生選手が室伏さんにアピールしたら最高の体の使い方を教えてもらえると思う」とアドバイスを送った。

 ステージをプロの舞台に移し、新たな一歩を踏み出した羽生は「今できることを目いっぱいやって、またフィギュアスケートの限界を超えるようにしていきたい。それがこれからの僕の物語としてあったらいいなと思う」。まだ見ぬ世界を追い求め、これからも愚直に競技と向き合っていく。

【初単独公演も妥協なし】初の単独アイスショーには、羽生の〝プライド〟が詰まっていた。90分間ほぼ無休での演技をこなすべく、徹底的に体力強化に励んだ。「本当に大変だった」と振り返りつつも「普通は1つのプログラムに全力を尽くしきってしまう。この後に滑ることは考えられなかったけど、何とかここまで体力を続けることができた」とホッとした表情を見せた。

 構成もギリギリまで考え抜いた。「表現したい世界や、演技と演技の間のVTRとかのストーリー性、物語をみなさんに伝えやすくする作業、自分が美とするものが伝わるように編集した」。何度も微調整を繰り返し、4日の朝に完成したという。圧巻の演技で観客を沸かせたが「これからもみなさんと頑張っていきたい」。プロになっても妥協なき姿勢は健在だ。