元猪木番記者が〝昭和〟の燃える闘魂を振り返る連載第12回は食について。グルメだったスーパースター、アントニオ猪木さんが愛した意外な味とは…。
猪木さんには日本はもとより、世界中でおいしいものを食べさせてもらった。ローマでは絶品の地元の焼き魚、ニューヨークは見たこともない分厚いパストラミサンド、生ガキ、発祥のホットドッグ、リトル・イタリーの高級店。日本なら大分でフグ、博多でオコゼ、札幌はカニなどなど。どれもびっくりするぐらいうまかった。
そんな中で、一番はどれかと聞かれれば、味や値段は別として特に思い出深い料理がある。
ロサンゼルスでのある日、朝から忙しく動き回った猪木さんと私はおなかペコペコ。ダウンタウンに戻ったところで飯を食おうとなった。猪木さんは「何か食いたいもんとかあるかい。なきゃあ、ちょっと行きたいところがあるんだけど、いいかな」。
連れて行ってくれたのは年季の入った古い日本料理店だった。店内も薄暗く、第一印象は「大丈夫かな」で、おいしいものが出てくるような雰囲気は全くなかった。猪木さんは店の人とは旧知の間柄のようで「よう、久しぶり」「やあ、元気だった?」と2人とも気軽に話している。
「すぐにできるもんってある?」「カレーならあるよ」「おっ、それでいいよ」「温めなきゃいけないけど」「いや、そのままでいいよ」
ということで、冷たいカレーライスが運ばれてきた。「冷めたカレーってうまいんだぞ。食ってみなよ」と猪木さんは私に勧めながらパクパク食べている。「冷たいカレーってどうなの」と思っていた私だが、口にしてみるとこれが昔ながらのカレーで、思いのほかイケる。決して腹が減っていたからではなく、本当にうまい。あっという間に平らげてしまった。
「じゃ、また。今度はゆっくり来るよ」と言って店を出た猪木さん。私には「昔からある店なんだよ」とだけ語っていたが、関係者に後から聞くと大変な店だとわかった。LAで一番古い日本料理店とも言われ、猪木さんが当地でトーキョー・トムのリングネームを名乗り武者修行していたころからあった店だというのだ。
ということは…冷たいカレーは猪木さんが修行時代に食していた可能性が高い。試合を終え、異国でひとり食べる冷たいカレー。さぞや郷愁を募らせたことだろう。猪木さんの〝青春の味〟。私にとっても忘れられない味になっている。(元プロレス担当・吉武保則)












