【取材の裏側 現場ノート】連日の猛暑もピークを過ぎ、朝晩はだいぶ涼しくなってきた。同時にリンクへ足を運ぶ機会も増え、フィギュアスケートシーズンが到来しつつあるなと実感している。

 昨季は2月の北京五輪で、史上初の銅メダルに輝いた団体をはじめ、男子は鍵山優真(19=オリエンタルバイオ・中京大)が銀メダル、宇野昌磨(24=トヨタ自動車)が銅メダル、女子も坂本花織(22=シスメックス)が銅メダルを獲得した。3月の世界選手権でも宇野と坂本が8年ぶりに〝男女ダブル金メダル〟を達成するなど、世界に日本の強さを示した1年となった。

 今季はいったいどんな演技を見せてくれるのだろうか――。注目選手を挙げればキリがない。ただ、個人的には2018年世界選手権銀メダルの樋口新葉(21=明大)に期待を寄せている。

 樋口には7月下旬、オンラインでインタビューを行う機会に恵まれた。1対1で話すのは初めてだったが、私が自己紹介で「年齢は宇野選手の1個上なんです」と切り出したところ、樋口は「若いですね」と笑顔で回答。話に乗ってくれたおかげで空気が和み、近況や競技に対する思い、今後の夢など、たくさんの話を聞くことができた。

 その中で、印象に残った樋口の言葉がある。「自分の気持ちがこれでもういいって思うぐらいまではスケートをやりたいなと思っています」。集大成と位置付けていた北京五輪では、団体銅メダルに大きく貢献。ところが、北京五輪後には現役続行を宣言し、新たな一歩を踏み出す決断を下したのだ。

 なぜ、リンクに立ち続ける道を選んだのか。せっかくの機会なので、事の真相を聞いてみた。樋口は一切の迷いなく答えた。「例えばトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を全日本選手権のショートプログラム(SP)とフリーで跳ぶことだったり、全日本もまだタイトルを取っていないので」。数々の国際大会で結果を残してきた一方で、全日本選手権の最高成績は2位。同世代の坂本や紀平梨花(20=トヨタ自動車)は日本一の景色を味わったものの、樋口はまだ知らない。だからこそ、日本一に対して並々ならぬ思いを抱いている。

 現在は北京五輪後に判明した右すね疲労骨折の回復具合を見ながら、日々の練習をこなし、試合に出場していく予定。日本一を目指す上で、インタビューの最後には究極の目標も明かしてくれた。

「何年も何十年たっても『樋口選手のスケートってすごくよかったよね』と言われるような滑りをしたい。そういう印象的なスケーターになりたい」

 群雄割拠の女子フィギュア界。いくら樋口と言えども、今季も活躍できる保証はない。だが、何かやってくれそうな予感がしたのも事実。寒さも忘れるくらい〝アツい〟冬が今から待ち遠しい。(五輪担当・中西崇太)