よりによってこの場所で――。東京・渋谷区円山町で20日夜、母と娘が刺される無差別刺傷事件が起きた。逮捕された少女が埼玉県戸田市に住む15歳の中学3年生ということで世間に衝撃が走ったが、周辺住民には別の恐怖がフラッシュバックした。というのも事件現場は、25年前に世を騒がせた東京電力女性社員殺害事件の現場と目の鼻の先の場所だったのだ。


 事件は20日午後7時20分ごろ、京王井の頭線神泉駅近くの路上で発生した。母親(53)と娘(19)が歩いていたところ、少女が背後から2人を長さ約8センチの包丁で襲い、背中や腹、腕などを時には馬乗りになって刺したという。娘は背中に深さ10センチ以上の刺し傷を負い、ともに全治3か月の重傷を負った。

 殺人未遂容疑で逮捕された少女は、使用した包丁のほかに長さ約9センチの折り畳みナイフと、長さ約7センチの果物ナイフをズボンのポケットに忍ばせていた。近くに住む住民や通行人らに取り押さえられた少女はマスクにTシャツ、ズボン姿で返り血を浴びており、泣き叫んでいたという。

 不可解なのは犯行動機だ。戸田市在住で同市立中学3年の少女は、襲った親子とは面識がない。逮捕直後は「死刑になりたいと思って、見つけた2人を刺した」「家庭や学校でのトラブルはない」と供述。さらに21日には「母親は不機嫌になると態度に表れる癖があって、自分も似てきていると思って殺そうとした」「人を殺せるか試そうと思った。弟はつらいだろうから、弟も殺そうと思った」と話している。

 戸田市で昨年から1年間、市議を務め、子どもの問題に取り組んでいたスーパークレイジー君こと西本誠氏は「SNSの影響もあり、小中学生をはじめ、少年少女からたくさんの相談や悩みを聞いてきました。家庭での悩みや交友関係などが多かったですが、死刑になりたいという言葉は聞いたことありませんでした。もっと誰かに相談ができる世の中になってほしいなと切実に思います」と唇をかんだ。

 謎だらけの事件だが、事件現場をめぐっても何の因果か過去の未解決事件とリンクした。JR渋谷駅から約700メートル西に位置する現場周辺は、円山町の一角で、クラブやラブホテルが集中している。深夜から朝方は酔っ払った若い男女でにぎやかになるが、それ以外は人通りも少なく閑静なエリア。少女が親子を襲った裏路地は、1997年に東京電力の女性社員が殺害されたアパートの目の前だ。

 東電のエリート女性社員が仕事を終えた後、夜は現場付近で売春していたとされ、当時大きなニュースとなった。また、逮捕されたネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリさんは、無期懲役の判決を受け15年間服役していた中、2012年に再審無罪となり、冤罪事件として再注目された。

 ゴビンダさんが当時、住んでいたのは殺害現場となったアパート横のビルだった。事件は未解決のままで、エリート女性社員の「昼の顔と夜の顔」の二面性をめぐっても多くの本が出版されている。再開発が進む神泉駅周辺で、事件現場のアパートとビルはまるで時間が止まったかのように手つかずで残ったままで、今なおネット上では話題のスポットとなっている。 

 東電女性社員と面識があったという現場近くの飲食店店主は「場所を聞いて驚いた。この辺では、たまにホテル内での事件や覚醒剤で捕まる芸能人がいるが、路上での殺人未遂事件なんて、大きいのは東電OL殺人事件以来では。あの通りは普通の人は歩かないから、なんであんなところで事件を起こしたのか」と首をかしげた。

 少女は事件当日、電車で戸田から新宿駅に到着した後、約4キロ離れた現場まで徒歩で移動してきたという。偶然、迷い込んでしまった末の凶行か、それとも土地勘があって人通りが少ない裏路地と知っていたのか、はたまた25年前の事件を知っていたのか――。15歳の少女を狂気に駆り立てた動機の解明が望まれる。