オリンピアンから地方公務員へ――。2016年リオデジャネイロ五輪柔道女子78キロ超級銅メダルの山部佳苗さん(31)は、20年10月に現役を退いた。アスリートのセカンドキャリアが社会の課題となりつつある中、現在は千葉・我孫子市役所の職員として活動している。五輪メダリストがなぜ公務員として働く決断を下したのか。本紙の取材に応じたオリンピアンが、自身の経験をもとに〝第2の人生〟の切り開き方を伝授してくれた。

 迷いはなかった。多くのアスリートは現役引退後にセカンドキャリアの壁に直面する。幸いなことに、山部さんは当時所属していたミキハウスからコーチ就任の誘いを受けた。それでも「120%選手のためにいろんなことを犠牲にしてサポートできるかと考えたときに、中途半端にやりますというのは違う」と退社を決意。かねて「子供たちに柔道を教えたい」との夢を抱いていたことから、民間企業に身を置き、児童福祉や児童発達などについて学んだ。

 転機が訪れたのは昨年の夏だった。東京五輪に出場するスロベニア女子柔道代表の事前キャンプが我孫子市で行われたこともあり、同市の関係者から「一度顔を出してほしい」と要望を受けて練習会場を訪問。星野順一郎市長ら同市の人々と時間を過ごす中で「アットホームな感じだったし、周囲から『我孫子市の柔道を盛り上げてほしい』との声もいただいた。そんなことを言っていただけるようなところで働いてみたい」と心を動かされた。

 中高校生の「なりたい職業ランキング」で毎年上位に入るほど、公務員の人気は高い。前職の経験から福祉に関する知識があったとはいえ「専門学校とかには行ってないですけど、独学で勉強していました」とすぐさま準備をスタート。面接時には「柔道で学んだことをみんなに伝えたい」と猛アピールし、難関試験を突破した。現在は「今の子供たちは現実的で、大きな目標を持てていない子が多いと感じている。我孫子市の子供たちが大きな目標を持てる機会をたくさん作れるような政策とか、イベントや講演ができたらいいな」との思いで、日々仕事に励んでいる。

 真っすぐなまなざしは今も昔も変わらない。最後に、山部さんはセカンドキャリアに悩むアスリートたちにエールを送った。「私はやりたいことに対しては無知だったので、一から勉強しないといけなかった。競技人生のあきらめの瞬間が来た時が次のことを考える時期だと思うので、何を本当にやりたいのかというのを考えたらいいと思う。決まったらそのことを勉強できる環境に飛び込むのが一番だなと思う」

 努力を怠らない姿勢は、どのステージでも必須条件のようだ。

 ☆やまべ・かなえ 1990年9月22日生まれ。北海道出身。旭川大高3年時に全日本ジュニア体重別選手権で優勝を果たし、山梨学院大に進学。4年時には全日本選手権で初優勝を飾った。卒業後はミキハウスに入社すると、2016年リオデジャネイロ五輪78キロ超級代表に選出。銅メダルを獲得し、道民栄誉賞を受賞した。20年10月の講道館杯を最後に現役を退き、現在は千葉・我孫子市役所で働きながら、子供たちへの柔道指導にも携わっている。172センチ。