第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で世界一奪還に挑む侍ジャパンが7日、東京ドームで1次ラウンド初戦のキューバ戦に臨み、11―6で快勝。幸先のいいスタートを切った。この試合で話題となったのは、4回に山田哲人内野手(24=ヤクルト)が放った「幻のホームラン」。左翼席最前列で身を乗り出してホームランをキャッチしてしまった少年には、ネット上でバッシングが殺到し、あっという間に個人特定の騒ぎにまで…。騒動の舞台裏を追跡した。

“事件”が起きたのは1―1の同点で迎えた4回二死二塁。ここで打席に立った山田は、カウント2ボール1ストライクからの4球目、キューバ2番手イエラの123キロのスライダーを捉えた。高々と上がったボールは左翼スタンドに吸い込まれた。

 勝ち越し2ランに、侍ベンチと東京ドームが沸く。だが、殊勲の山田は二塁を回ったところで審判に止められた。左翼席の観客の少年がスタンドに飛び込むこの打球を“ナイスキャッチ”していたのだが、フェンス越しにグラブを差し出し、スタンドに飛び込む直前にキャッチしているようにも見えたからだ。


 審判団が協議の結果、ビデオ判定へ。WBC2次ラウンドまではホームランに限りビデオ判定が取り入れられている。その結果は…。少年が打球を捕った位置がフェンスよりも手前と判定され、二塁打となった。

 実際はホームランだった可能性が高い。本紙がテレビの様々な角度の映像をスローで確認すると、少年がボールをグラブに収めたのはスタンドインの位置。だが、グラブを突き出した勢いでその後はフェンスの前にグラブが飛び出しており、ここだけを切り取られたのかもしれない。

 とはいえ、判定はスタンドに届かず。「こいつは何てことをしてくれたんだ!」。その直後からネット上は大騒ぎ。この少年に対する怒りの声で騒然となった。

 しかも山田の打球をキャッチした少年が、ボールを片手に記念撮影。直後、この写真がツイッターに投稿されたことから、一気に炎上し「個人特定」が行われる事態となった。

 すぐさま疑わしき4人の実名がネット上にさらされることになったが、そのいずれもが未成年。写真をツイッターに投稿した人物とその友人のアカウントは削除されたが、投稿写真とよく似た人物が、少年野球チームに所属していたころの写真も探し出され、うち2人は現住所を書き込まれた。ここまでくると「ネット住民恐るべし」と言うしかない。

 本紙は5回裏終了時にその少年に話を聞いた。「ボールは思わず捕ったの?」との問いかけには「ウン」と小さな声で答えるのがやっと。最後は試合終了を待たず、友人たちと人目を避けるように球場を後にした。

 メジャーの球場では退場処分となる行為であることから、ネット上ではこの少年が警備員に注意を受けている画像とともに「出禁になった」との書き込みもあったが、大会主催者に事実確認をすると「退場処分にもしていないし、今大会を出禁にはしていない」と特に処分などは行わなかったという。

 試合後、当の山田は「これも野球ですから。入ったと思った? ギリギリかなと思った。まあ1点入りましたし、その前のチャンスで打てなかったですし」とサバサバ。その後に侍ジャパン打線が大爆発し、快勝したことが何よりの救いだった。

 これがもし、1点差で負けていたとしたら…。少年の心に大きな傷を残していたことは間違いない。侍ジャパンの爆勝はひとりの野球ファンを救う結果となった。

★伝説のキャッチ=メジャーで最も有名な観客の本塁打キャッチは、1996年10月9日、ア・リーグ優勝決定シリーズ第1戦の8回にヤンキースのジーターが放った“同点弾”だろう。オリオールズ相手に3―4で迎えた8回裏、先頭で打席に入った“新人”のジーターは右腕ベニテスの速球を捉え、右翼へ大飛球を放った。右翼手タラスコがフェンスに体を当ててジャンプしたが、グラブの直前で白球は消えた。最前列で観戦していた少年がグラブを差し出し「横取り」したのだ。完全に妨害だったのだが、線審の判定は本塁打。当時はビデオ判定はない。オリオールズベンチは猛抗議したものの、判定は覆らず、ジョンソン監督は退場となった。延長11回、ウィリアムズのサヨナラ本塁打で勝利。少年は試合後、ニューヨークメディアから多数の取材を受けるなど大人気。ヤンキースはVIP待遇でもてなした。4勝1敗で15年ぶりのリーグ優勝を飾ると、その勢いで18年ぶりにワールドシリーズを制覇。メジャー史に影響するキャッチだった。