【取材の裏側 現場ノート】「あどけなさが残る表情の裏には、確固たる意志が隠されている」。拓大のスーパー1年生・不破聖衣来を初めて取材した際、私がノートに記した言葉だ。

 昨年10月に行われた全日本大学女子駅伝での出来事だった。2000年シドニー五輪女子マラソン金メダルの高橋尚子氏が「スターが誕生しましたね」と絶賛する走りを見せ、5区(9・2キロ)の区間記録を1分以上更新する28分00秒の好タイムで区間賞に輝いた。「いつかゆっくり話を聞いてみたいな」。そう思っていたところ、翌月に同大文京キャンパスで開催された富士山女子駅伝に向けた壮行会を取材する機会に恵まれた。当時は今ほど不破に注目が集まっておらず、取材に訪れた新聞社は数社しかいなかった。

 壮行会後には、じっくりと不破の話を聞くことができた。「姉が小学生のときに持久走の練習を朝にしていて、自分も小学生になって持久走が始まるというときに、一緒に朝走るようになったのが陸上を始めた本当の最初のきっかけ」。「以前は走っているエネルギーに対して食事の摂取量が足りていなかったので、そこを改善して食べるようにした」。「ホッケが一番好きです。お肉より魚の方が好きで、お寿司とかも好きです。一番好きなネタはホタテです」。幼少期から現在に至るまで、多くのことを包み隠さず丁寧に教えてくれた。

 その中で、個人的に印象的だったシーンがある。タイミング的にはお笑い芸人の「フワちゃん」を引き合いに「陸上界のフワちゃん」と報じるメディアが増え始めたころだった。そこで「フワちゃん」に絡めた質問もいくつか飛び出たのだが「私も中学時代からフワちゃんでした」と意地をのぞかせた上で「名前に負けない陸上選手になりたい」ときっぱり。迷いなく言い切る姿に、不破のプライドが垣間見えた気がした。

 その後の不破の活躍は、みなさんご承知の通り。直近のレースとなった16日の全国都道府県対抗女子駅伝では、群馬の4区(4キロ)で13人抜きの快走。12分29秒の区間新記録を樹立した。「陸上界のフワちゃん」と強調しなくても「不破聖衣来」の名前で、多くの方が注目する存在に自ら駆け上がった。実際に弊社の記事では、ありがたいことに「フワちゃん」と表記しなくても、多くの反響をいただいた。

 一部の陸上ファンからは、早くもマラソンでの活躍を期待する声もある。しかし、不破は「大学中にやることは考えていません」との方針。指導する拓大の五十嵐利治監督によると、28年ロサンゼルス五輪はマラソンでメダルを目指すプランを描いているという。

 楽しみはあとに残した方がいい――。ロサンゼルス五輪までは約6年あまり。私は「フワちゃん」ではなく「不破聖衣来」のサクセスストーリーをこれからも伝えていこうと思う。

(五輪担当・中西崇太)