昨今、オシャレに敏感な若いビジネスマンの間では、スーツをオーダーで仕立てるのがブームだ。その流行の波は球界にも数年前から及んでいる。

 移動時のスーツ着用が義務付けられている巨人を例にとれば、“オシャレ番長”は坂本勇、陽岱鋼がツートップ。2人ともスタイル抜群で、変わり種のデニムやスウェット素材も難なく着こなしてしまう。今シーズンのある日、名古屋から金沢へ電車移動した際のこと。若草色(?)のダブルスーツを身にまとい、サングラスをかけた陽岱鋼が在来線ホームにたたずむ姿は異様だったが、実に格好良かった。

 そんな中で若い選手にも負けない、圧倒的な大人の色気を常に放っていたのが高橋由伸前監督だった。在任中は女性ファンから「スーツでベンチに入って!」との声が飛んだほど。前監督を始め、坂本勇、亀井らイケメン選手のオーダースーツを数多く手がける関係者も「野球界で最もスーツが似合うのは由伸監督です」と断言する。

 ただし、顔がいいだけでスーツは似合わない。由伸前監督も40代の中年男だ。陰では涙ぐましい努力があった。球界屈指のグルマンで自他ともに認める「太りやすい体質」だけに、人目を避けて走りまくってスタイル維持に努めていた。キャンプ中も選手が出発する1時間以上前に宿舎を出て、約3キロの道を早朝ランニング。球場に到着後も独りウエート場にこもった。

 退任が決まっていた今季終盤のある日。私が「3年間、太りませんでしたねぇ」といたずら心で水を向けると、前監督は「お前らがうるさいから頑張ったんだよ。まあ、人に見られる商売だったからな」と照れ笑いした。だから、心配だ。重職を辞した今、好物のトンカツやブタしゃぶ、すしに舌鼓を打ってばかりいやしないだろうか…。

 21年間のユニホーム生活に別れを告げ、今後はスーツをまとって現場を訪れる機会が増えるだろう。再登板を願いつつ、その姿を楽しみにしているファンも大勢いる。骨休めをしつつも、どうかヨシノブは永遠に格好良くあってもらいたい。

(運動部主任・堀江祥天)