〝レジェンド〟法華津寛が緊急提言「東京五輪は中止せよ」 馬術で3度出場 医薬品会社の社長を務めたからこそわかるコロナの危険度

2020年07月22日 11時00分

「生きる伝説」法華津寛

【どうなる?東京五輪パラリンピック(85)】21日には東京で新たに237人の感染者が出るなど新型コロナウイルスの終息が全く見えてこない中、前回の東京五輪(1964年)にも出場し、来年夏に延期された東京五輪で80歳4か月の史上最高齢出場を目指す馬術の法華津寛(79)が沈黙を破った。開催か中止か、世論が揺れる中で五輪の歴史を誰よりも知る“生きる五輪伝説”が一刀両断。最高齢記録はもちろん、昭和・平成・令和の3時代で五輪出場の金字塔を断念してまで中止を提言したのだ。外資系医薬品会社の社長も務めた経験豊富な医療知識、欧州の新型コロナウイルス事情を踏まえた渾身の特別寄稿をご覧あれ!


 2020年1月3日、私はこれまでベースとしていたドイツのラーデンという町を出発し、馬を連れてポルトガルのカスカイスに向かっていました。馬術連盟の五輪選考規定は1~5月の競技の成績。その間に5つの競技があるポルトガルに的を絞り、少し早めに知り合いのキュウ舎で調整しました。この時点でコロナの件は全く話題にも上っていませんでした。

 2月後半からイタリアでコロナ騒動が始まり、それがスペイン・フランスと広がり、ポルトガルは外出規制が敷かれて競技どころではなくなりました。この時点で「今年の五輪は恐らくできないであろう」と思いましたが、陸路スペイン・フランスが国境封鎖されていたため馬を連れてドイツへの帰国を断念。コロナ騒ぎが収まるまでポルトガルに滞在し、馬のトレーニングに専念することにしました。

 五輪の1年延期が決まった時点(3月24日)では「馬のトレーニング期間が増えたことは非常にラッキー」「来年を目指すためにもう少し頑張ってみるか」という思いでした。しかし、その後はコロナ騒動がどんどん広がり、いまだにポルトガルはマスク着用義務化が継続。感染の危険性は3月のころと何も変わっていません。

 21年の五輪開催は無理だと考えている方も増えていると思います。まだ1年もあるじゃないかと言う方も多いでしょう。しかし、私はかなり難しいと思っています。スウェーデンの研究では「感染者の10%にしか再感染を予防する量の抗体ができない」と言われ、7月14日のCNNニュースでは「コロナに感染した人の抗体は2週間から2か月くらいしか体内に残らない」という研究が出ました。ということは一度感染しても90%以上の人は再感染の恐れがあり、インフルエンザのようにある時期が来たら自然に終息するということはあまり考えられない。五輪開催のためには今後1年間で世界に十分なワクチンが行き渡るという必要性があります。

 オックスフォード大学が開発し、イギリスのアストラゼネカが製品化するワクチンは本年9月から年間20億回分の供給が可能だと発表しています。また、米国モデルナが21年以降年間10億回分、中国・ドイツなどでも年内供給が可能だと言われています。非常に楽観的に考えて、アストラゼネカが9月から供給が可能だとすると、来年6月までに約15億回(この内の3億回分は米国、1億回分は英国に行くと言われています)、モデルナが21年初めから供給できたとして5億回分、その他の会社が21年6月までに10億回分供給ができたと仮定し、しかもこれらのワクチンが1回の接種で十分な抗体産生が可能と考えると、来年6月までに30億人前後の人にワクチンが行き渡ると考えられます。しかし米国の今有名なDr.Fauciは世界に行き渡るには1年半~3年かかると言っていますので、私の考えはかなり楽観的と考えてください。

 現在の世界人口が約77億人、約200か国弱。20年東京五輪参加予定は153か国・地域なので、五輪に関係する国の合計人口は60億人前後でしょう。すると、うまくいけば約半数の人達がワクチン摂取により、コロナの免疫を持つと考えられます。しかし、一般的に人口の6割が免疫を持って「終息」と言われているので、終息した状態での開催は難しいでしょう。PCRを含む抗原検査を選手・役員約10万人に行い、14日間の検疫をして入国させることはできるのか。仮に検疫を緩和して入国させるとどうなるのでしょう。

 今までの私の4大会の経験で言うと、選手村は2DKくらいのアパートメントに5人の選手。大きな食堂でセルフサービスの食事を摂り、バスで選手村から練習場・競技場へ移動する日常です。自由行動の自粛要請はできるのでしょうが、それ以上の規制は今の日本のやり方を考えるとしないでしょう。そうすると施設を提供する都市の住民を感染の危険にさらすことにもなります。

 これまで私が出場した五輪は平和で楽しい雰囲気の中で行われていました。大会関係者と選手、ボランティアと選手、観客と選手の間のつながりが平和で楽しい五輪を作るのです。無観客という話も聞きましたが、五輪に観客が来ないなんてあってはいけないこと。プロスポーツなら生活費を稼ぐために放映権収入だけでも欲しいので無観客は理解できますが、観客なしの五輪など、五輪と呼んではいけない。

 私にとって21年は五輪出場の最後のチャンスですが、無理な開催をして平和で楽しい五輪のイメージが壊れることは非常に残念です。いつまでも開催か中止かの決定を先延ばしするのは、今の日本経済にとっても、選手の将来プラン作成にとっても良くないと思います。

 6月上旬に組織委幹部が開催可否は来年3月になると話していましたが、選手としては決定を先延ばしされると非常に迷惑です。もっと大事なのは、五輪を盛り上げてくださるボランティアの方々が将来計画を決められないこと、加えて五輪後の施設の使用を計画されていた各々の迷惑を考えると、いつまでも開催か中止かを引き延ばすことはいかがなものでしょう。コロナを甘くみてはいけません。大げさに言えば、五輪を取るか、国民の健康・命を取るかの選択です。

 組織委員会と政府は、世界のコロナの状況を考え、来年の五輪辞退をIOCに申し入れるべきではないかと思います。現状を鑑みると中止・辞退は日本を含み、世界に歓迎される決定になるでしょう。 (原文ママ)

 

☆ほけつ・ひろし 1941年3月28日生まれ。東京都出身。12歳で乗馬クラブに入会。慶大経済学部卒業後、63年に日本石油に入社。64年に東京五輪出場。デューク大大学院留学後、86年に外資系医薬品会社「オーソ」(現オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス)の社長に就任。定年退職後の2003年から再び五輪を目指して単身ドイツに馬術留学。08年北京五輪に44年ぶり出場、12年ロンドン五輪で日本人最高齢の71歳で出場。16年リオ五輪は愛馬の体調不良で出場断念。家族は妻と長女。168センチ、61キロ。