新型コロナウイルスへの対応を巡ってJリーグとクラブの間の溝が深まりつつある。1、2日に行われたJリーグでは新型コロナによる緊急事案が続出。現状のガイドラインや検査体制では対処しきれないケースが相次ぐ中でJリーグはギリギリの判断を迫られたが、ドタバタ劇の中で浮かび上がってきたのはクラブの最前線で戦う“現場”の考えとの乖離だ。


 事の始まりは、まず1日にU―19日本代表合宿に参加していた選手に陽性判定が出て合宿が中止になったこと。翌日になって当該選手がJ2町田のFW晴山岬(19)と発表されたが、同日のアウェー京都戦は遠征メンバーに濃厚接触者がいないと保健所が判断したため予定通り開催された。

 晴山は日本サッカー協会が実施した検査で陽性が判明。Jリーグ側は7月31日に実施していた定期検査の判定を予定の4日から急きょ繰り上げて追認する形で陽性を発表した。するとこの作業の過程で、J2福岡の選手も「陽性の可能性が非常に高い」と判定されたため、2日午後7時開始予定の大宮戦(NACK5)がわずか1時間半前に中止が決定する異例の事態となった。

 それ以外でもドタバタ劇が繰り広げられた。1日のJ1FC東京―鳥栖戦(味スタ)では、開始前に鳥栖の選手の発熱が発覚。Jリーグは予定通りの試合開催を指示したが、FC東京の長谷川健太監督(54)は試合後に「濃厚接触者がいるのかいないのか分からない状況の中で今日の試合へ(選手を)臨ませなければいけなかった。やらないべきだと思う」と安全が保証できない中での試合に不満をあらわにし、Jリーグ側の判断に疑問を呈したのだ。

 Jリーグの村井満チェアマン(61)は「1回だけで突発的な発熱を陽性疑いと判断するのは早すぎる。クラブにエントリー選手は陰性だと伝えたので試合開始に踏み切った」と開催を強行した理由を説明したが、FC東京側は感染リスクにさらされることになり後味の悪さを残した。

 新型コロナ禍ではJリーグ側も対策に尽力しているが、気になるのは現場との温度差だ。

 今回のFC東京の件に加えて、J1名古屋で感染者が続出した際には、直後の試合で対戦する柏が実行委員会で開催延期を提案。しかしJリーグ側は応じなかった。柏の提案は感染の懸念があるだけで、ガイドライン上は開催に支障がないとされたからだ。

 しかし一連のリーグの対応にJクラブ関係者からは「有事なのだからもっと万全を尽くしてもいいのでは。FC東京のような場合でも、試合をやるにしても十分な説明の時間を取って開始を遅らせるとか、現場が納得して試合に臨める方法もあるはず」との声も上がり、直接感染の脅威にさらされるクラブ側の不信感は増している。

 未曽有の事態だけに試行錯誤の中でのリーグ運営となるのは仕方ない。だが、それは両者が協力し合ってこそ成り立つ。Jリーグとクラブの間に遺恨が生じれば新型コロナ禍のシーズンは乗り切れない。