【プレイバック1994米国W杯#3】“サッカー不毛の地”米国で1994年に開催された、当初は盛り上がるかどうか不安視されていた。しかし、自国代表チームが出てくると、さすがにメディアの報道も増えてきた。特にグループリーグ2戦目で優勝候補の一角と見られたコロンビアを破ると、新聞・テレビが大々的に報じ、お祭り騒ぎとなった。が、この勝利がW杯史上最悪の悲劇を呼んでしまうことに…。

エスコバルのオウンゴールで喜ぶアメリカ(1994年6月22日、ロイター)
エスコバルのオウンゴールで喜ぶアメリカ(1994年6月22日、ロイター)

 この大会でコロンビアはバルデラマ、リンコン、バレンシアといった破壊力抜群の攻撃陣を擁し、ダークホース的な存在だった。だが、初戦のルーマニア戦で完敗。次戦の米国戦ではオウンゴールを含む2失点で敗戦し、グループリーグ敗退が決まった。

 この時、オウンゴールを生んでしまったのが、DFアンドレス・エスコバルだった。南米で最もクリーンで知的な選手の一人として知られていた。オウンゴールのシーンはエスコバルがボールに触っていなければ相手に決められていた状況で、誰も彼を責めることはできない。

 しかし、そうは思わないない人物がいた。7月2日、コロンビアに帰国後、レストランから出る際に射殺されたのだ。犯人は彼を撃つ際「オウンゴールをありがとう」という言葉を投げかけた。

 コロンビアの試合は生で見ていなかったこともあり“代表選手が射殺される”というのは現実的ではなかった。本当に起きた事件だと実感したのは、決勝トーナメント1回戦ベルギー対ドイツ戦のキックオフ前に黙とうが行われたのを目にした時だった。選手が殺されて黙とうが行われる…というのは前代未聞のことだ。

 この事件は全世界に衝撃を与えた。普段サッカーの取材をしていない、というある米国紙の記者は「スポーツの世界でこんなことが起きるとは思わなかったし、起こってはいけない。本当に恐ろしいことだ」と首を振って嘆いていた。

 当時は「麻薬密売組織が関与したしたスポーツ賭博がらみの事件」とも報じられ、実行犯の男は逮捕された。

98年のW杯コロンビアvsルーマニア戦で掲げられた横断幕(98年6月15日、ロイター)
98年のW杯コロンビアvsルーマニア戦で掲げられた横断幕(98年6月15日、ロイター)

 ところで、今年32年間の時を経て、エスコバルの事件が注目を集めることになった。今年の2月、実行犯がメキシコで射殺されたのだ。

 男は11年間服役し、出所。その後、どんな生活を送っていたのかは不明だが、麻薬密売組織との関わりがあったと言われる。射殺に至る経緯など、詳細は明らかにされていないが、事件からおよそ32年の時を経て、米国でW杯が開催される年にこうした事件が起きたのは、何やら因縁めいたものを感じるのだ。