長州さんはKENSO&鈴木ひろ子夫妻の恩人 朝の住宅街に響き渡ったビンタ音と「バカ野郎っ」の怒声

2022年04月21日 11時30分

WJ時代のケンゾー(左)にとって長州は怖い先輩だった(03年3月)
WJ時代のケンゾー(左)にとって長州は怖い先輩だった(03年3月)

【鈴木ひろ子の「レスラー妻放浪記 明るい未来」12】

 世界最大のプロレス団体「WWE」で活躍したKENSO(ケンゾー=47)&鈴木ひろ子氏(47)夫妻による連載「レスラー妻放浪記 明るい未来」第12回は“革命戦士”長州力(70)が登場だ。いまやマット界きってのおしどり夫婦として知られるケンゾー&ひろ子氏だが、かつてはケンゾーの“火遊び”により幾度となく修羅場を迎えたことも…。そんな2人の関係破綻の危機を救ってくれたのが先輩の“破壊王”故橋本真也さん(享年40)、そして長州だった――。

 レスラーといえば「女性ネタ」はつきもの。ひと昔前の昭和・平成の世では、地方巡業をなりわいとするレスラーたちは、地方に行けば夜な夜な遊んで歩くのは当たり前。火遊びがあっという間に大火事に発展することも当時はしばしばです。

 新日本プロレスでデビューした当時、ケンゾーもご多分に漏れず、幾度となく大火事を起こし、懲りない彼とのケンカは年中無休。ケンゾーが女性問題で私とケンカになっていることは周囲にすぐに伝わり、先輩方はこの浮気騒動で仕事に支障をきたすことがないよう気を使って、それでもさりげないふりをして私に連絡をくださるのです。

 当時はレスラーにとっては女遊びもリングの肥やしで当たり前。これも毎度多くの先輩方に言われ、この先、私は一体どうなるのか…と内心途方に暮れていました。そんなケンカの仲裁でも、個性的なのが橋本さんでした。新弟子時代の当時も橋本選手が連絡をくださり、奥さまと2人で食事に連れ出してくれました。事が勃発した後では顔を合わせるのも腹が立つ状態でしたが、橋本さんから直接の誘いとなれば、私も断りづらく、仕方なく1人で約束の芝浦のホテルのレストランに向かいました。

 個室には橋本選手が奥さまと、緊張の面持ちのケンゾーが3人で待っていました。いつも通りに受け答えしているケンゾーに内心はイラッとしながら、目も合わせずに黙々と料理を食べていると、不意に橋本さんが口火を切りました。

「で、ばれたんだろ?」

 珍しく黙る私に、橋本選手がさりげなく気を使ってくださいました。

「こいつもバカだから。仕方ないから」

 橋本選手の言葉に奥さまが突っ込みます。

「バカはパパも一緒じゃん」

「俺はいいんだよ」

 こんなやりとりにも珍しく私が無反応でいると、橋本選手がため息をつきながら言いました。

「ケンゾー、お前さ…」

 改めてお説教が始まるかと思いきや、橋本選手らしいひと言でした。

「俺も知らなかったぞ。あれだけ俺のそばにいて、いつそんな…」

「パパっ!」

 ヘンなところに感心する橋本選手と、それを止める奥さまの前に、2人の空気はさらに凍りついたのです。

 そしてケンカの仲裁といえば、さらに単刀直入だったのが長州選手でした。新日本プロレスからWWEへ移籍する直前、ケンゾーは長州力率いるWJに所属していました。バタバタしながら船出した直後、またもや女性問題が発覚し、我が家は大騒ぎになりました。

 その真っただ中で、WJの巡業がスタート。私たちは夜通しの言い合いで翌朝もケンゾーは出発の時間を過ぎていましたが、出られるような状態ではありませんでした。

「行けば、仕事」

 ふてくされながらも時間に気づいた私が言うと、ケンゾーも言い返します。

「いいよ、もう、俺はどうせ終わりだ」

 グタグタと言い合いが続き、時間が過ぎていきます。出発時間を1時間近く過ぎたころ、不意に玄関のチャイムが鳴りました。

「はい、おはようございます」

 ドアを開けると、立っていたのは長州選手でした。

「ケンゾーいる?」

 戸惑う私の肩をポンポンと叩くと、長州さんは「入るよ」とすいすい家の中に入ってきます。リビングで青い顔をしたケンゾーがびっくりして立ち尽くしているところへ、長州選手は一目散に進み、いきなりビンタを食らわせました。

「バカ野郎っ!」

 それはリングでも聞いたことがないほどいい音がするビンタでした。我が家で、目の前で見る長州選手の迫力に、私は言葉を失いました。

「はい、ひろこさん。こいつ連れて行きますよ」

 私はこくりとうなずくのが精一杯でした。

「もう、いいね」

「はい」

 目黒の閑静な住宅街にドンと止められた高級車からケンゾーは腕を引っつかまれ、あっという間に車に乗せられました。

「あんたたち、大ゲンカして巡業の出発に遅れたんだって?」

 すぐに連絡をくれたのが北斗(晶)さんです。「家の中がすんごい暗かったって、長州さんが言ってたよ」

 そりゃそうです。一晩中、夜が明けたことすら気づかないほどの大ゲンカで、明るいおウチなわけがありません。どんなことがあっても、試合に遅れるのはダメ。そして男同士、長州選手や先輩選手からどんな話があったのか、私は今の今まで聞いたことがありませんが、あの時の長州選手の迫力は、忘れたくても忘れられない我が家の苦い思い出なのです。

 ☆すずき・ひろこ 1975年2月14日生まれ。千葉・船橋市出身。明大卒業後に福島中央テレビにアナウンサーとして入社。2003年にケンゾーと結婚し翌年に渡米。WWE入りした夫とともに、自身は日本人初のディーバ「ゲイシャガール」として大活躍。ハッスルやメキシコマットでも暴れ回った。現在は政界に転身し、千葉県議会議員を務める。一児の母。

 ☆ケンゾー 本名・鈴木健三。1974年7月25日生まれ。愛知・碧南市出身。明大ラグビー部を経て一度は就職するが、99年に新日本プロレス入り。2002年2月にアントニオ猪木から当時混乱していた新日本の現状を問われてリング上で「僕には自分の明るい未来が見えません」と発言したのは語り草だ。その後は米WWE、ハッスル、全日本プロレスなどで活躍。現在は共同テレビジョン勤務。191センチ、118キロ。

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