【広瀬真徳 球界こぼれ話】楽天が苦しみながらもパ・リーグ首位を堅持している。

 先週末に今季初の4連敗を喫したが、15日時点で25勝10敗1分けの貯金「15」。4月26日のロッテ戦からは球団新記録となる11連勝をマークした。開幕直後からチーム主力がコロナにより相次いで離脱した状況を踏まえれば御の字だろう。

 このチームの奮闘ぶり。ちまたでは田中将を中心とした豪華先発投手陣の安定した働きぶりや、新加入した西川の躍進などが挙げられるが要因はそれだけではない。4月から先発マスクをかぶる炭谷銀仁朗捕手(34)の存在も大きい。

 昨季巨人から加入したプロ17年目のベテランは開幕当初こそルーキーの安田に先発マスクを譲ったものの、安田が4月上旬にコロナ感染で離脱するやスタメンに昇格。以後は故障で出遅れた太田らの穴埋めをするかのように投手陣を支えてきた。ここまでチームが与えた失点は12球団最少の96失点。防御率も2・51でリーグ2位。シーズン開幕前に正捕手不在とささやかれていた楽天がこの数字を残せたのは間違いなく炭谷の力が寄与している。

 では、彼の具体的な良さは何か。今春キャンプで守護神・松井裕や先発投手陣の一角を担う滝中らに聞いたところ、一様に感心していたのがやはりリード面だ。

 松井裕が「自分が『ここは真っすぐかな』と思うところが、なぜかカーブのサインとか。自分にないアイデアで(配球を)組み立ててくれる」と話せば、滝中もベテランならではの安心感をこう表現していた。

「結果を見てもそうなのですが、その時の状況によってうまく自分の力を引き出してくれる。迷いなく自分を引っ張ってもらえますし、配球に対する意図もすごく感じます。だからあまり深く相手打者のことを考えず、そこ(炭谷のリード)に自分がうまく乗っかっていけばいい。そのあたりが銀仁朗さんのすごさでしょうね」

 蓄積したデータを駆使しながら相手打者の意表を突き、投手の状態に応じて臨機応変に最善策を講じる。経験値が乏しい若手や実績不足の捕手では不可能なこの職人技。炭谷の真骨頂とも言える。

 このところ先発出場の増加に伴い肉体的な疲労が気になるところだが、9年ぶりのリーグ優勝と日本一を目指す楽天には欠かせない存在になりつつある。

 普段は注目されない黒子役の地味なチーム貢献。もっと評価されてもいいのではないか。 

 ☆ひろせ・まさのり 1973年愛知県名古屋市生まれ。大学在学中からスポーツ紙通信員として英国でサッカー・プレミアリーグ、格闘技を取材。卒業後、夕刊紙、一般紙記者として2001年から07年まで米国に在住。メジャーリーグを中心にゴルフ、格闘技、オリンピックを取材。08年に帰国後は主にプロ野球取材に従事。17年からフリーライターとして活動。