【平成球界裏面史・平成のカープ編(3)】平成28年(2016年)、25年ぶりの優勝の原動力となった黒田博樹は、広島最後の〝投げ込み・完投世代〟だった。黒田自身、現役時代にはっきりとこう語っている。

「僕がプロに入ったころ(平成9年)は投げ込み全盛時代でしたからね。キャンプで200球以上投げるのは普通のこと。それがいいか悪いかは別にして、そういう練習の積み重ねで、体に負担のかからないフォームが自然に出来上がった」

 投げ込んだかいあってか、黒田は大リーグに移籍する平成19年までの11年間で、リーグ最多完投を6度記録した。現監督の佐々岡真司も現役時代から一貫して投げ込みの効用を強調している。

「100球ぐらいなら上半身だけの〝手投げ〟でなんぼでも投げられるでしょう。しかし、200球を過ぎたら下半身を使わないといい球がいかない。そこで初めてしっかりと体全体を使った球〝生きた球〟が投げられるようになる。プロはそうやって自分のフォームを固めるんです」

 過度な投げ込みは肩、ヒジを痛めるという批判も多い。だが「それは違います」と黒田は言った。

「投げ込みは、肩、ヒジを壊さないようにやるものです。投げ込みで下半身を使ったバランスのいい投げ方ができれば、それだけ肩、ヒジの負担が減り、結果として投手生命も長持ちするんですから」

 だが、そういう信念を持つ黒田がメジャー移籍を決めた平成19年、入れ替わるように前田健太が広島に入団。〝投げ込み派〟の黒田や佐々岡の持論について聞くと「投げ込みにいいことはひとつもありません」と、こういう答えが返ってきた。

「肩、ヒジは消耗品です。たくさん投げれば投げるほど肩、ヒジがよくなるということは100%あり得ないと思います。シーズンでは何千球と投げなきゃいけないのに、キャンプで何千球も投げたら肩、ヒジを休められるときがないじゃないですか」

 前田健によれば、そもそもフォーム固め自体、必要ないものだという。

「僕にとって、フォームとは最初から自分の中にあるものなんです。練習ではその感覚を確認するだけだから、数多く投げなくてもいいんですよ」

 そう言う前田健は完投数も少なく、リーグ最多をマークしたのも平成22年の一度だけだ。自己最多でもある完投数6は、黒田の自己最多記録13の半分にも満たない。

 前田健の主張について〝投げ込み派〟の先輩、投手コーチも務めた大野豊はこう懸念を示した。

「誰もがマエケンと同じようにやればいいわけではないよ。プロに入った時点ではまだフォームが固まってなくて、コントロールも身についてない投手のほうが多い。そういう後輩たちがマエケンの真似をしようとしないか、そこが心配ですね」

 この投手同士の一連の発言は、カープにおける〝イデオロギー闘争〟のようにも聞こえた。その後、彼らからエースの座を受け継いだ大瀬良大地は、先輩たちの調整方法を吸収した上、自分なりにアレンジしている。

「入団したころ(平成26年)、キャンプでは投球練習1回につき100球手前に抑えていました。それを、ブルペンに入る回数を減らす代わり、130~170球ぐらいに増やしていったんです」

 そう語った大瀬良は昨季11勝を挙げてリーグ最多、自己最多の6完投をマークした。が、今季は5勝2完投で登録抹消となり、右ヒジのクリーニング手術を受けている。〝投げ込み・完投主義〟は是か非か、正解はまだまだわかりそうもない。