【赤坂英一 赤ペン!!】DeNA・山崎が「小さな大魔神」と呼ばれていたのが随分昔のように思える。7月29日の巨人戦で抑えから中継ぎに回されて以来、1イニング持たずに降板したことが3度。リードされた展開での登板も珍しくない。

 山崎がラミレス監督に信頼されなくなった理由は何だろう。結果が出ていないことはもちろんだが、走者を出してもけん制球を投げようとしないことも一因ではないか。

 ラミレス監督は今年、キャンプからけん制球を重視する方針を打ち出した。開幕後も「足の速い走者は2度続けてけん制すればいい。そうやって打者を惑わせ、けん制をした次の球で併殺を取ることもできる」と手応えも感じているようだ。

 一方、山崎は昨季までのプロ5年間で一度もけん制球を投げたことがない。これについて山崎本人は以前、「100%で打者に向かっていきたいですから」と説明していた。そんな信念を持つ山崎を、ラミレス監督は木塚投手コーチを通して“説得”しようと試みた。山崎がまだ抑えを務めていた6月27日の阪神戦である。

 1点リードの9回二死から四球で走者を出し、続く大山へのカウント2―1で、ラミレス監督が木塚コーチをマウンドに走らせた。「走者に注意しろ」と、山崎にけん制を挟むよう促したのだ。

 山崎は指示通りに2度けん制したが、その直後に二盗を許してから投球を乱す。大山を四球で歩かせ、サンズに3ランを浴びて逆転負けである。

 これと似た場面が、8月25日の広島戦で繰り返された。2点リードの7回に登板した山崎は、先頭の坂倉に安打を打たれて無死一塁。ここでもけん制せず、ピレラをカウント0―2と追い込んだ直後に木塚コーチがマウンドに走った。その前、戸柱からはけん制のサインが出ていたが、山崎は見落としていたらしい。このあと山崎は一死二、三塁とされて降板。ここから代わったエスコバーが打たれ、2失点で一時同点とされている(その後にサヨナラ勝ち)。

 新守護神の三嶋はけん制がうまい。現に8月8日のヤクルト戦では、一塁へのけん制で最後のアウトをもぎ取った。ラミレス監督も「彼の評価はいまのところAプラス(最高以上)」と絶賛している。

 元抑え投手のOB評論家は「けん制はクローザーのリズムを狂わせる面もある」と、山崎の心中をおもんぱかっている。小さな大魔神は、いつこの悪循環から抜け出せるのだろうか。

 ☆あかさか・えいいち 1963年、広島県出身。法政大卒。「最後のクジラ 大洋ホエールズ・田代富雄の野球人生」「プロ野球二軍監督」「プロ野球第二の人生」(講談社)などノンフィクション作品電子書籍版が好評発売中。「失われた甲子園 記憶をなくしたエースと1989年の球児たち」(同)が第15回新潮ドキュメント賞ノミネート。ほかに「すごい!広島カープ」「2番打者論」(PHP研究所)など。日本文藝家協会会員。