【取材の裏側 現場ノート】仙台育英(宮城)の東北勢初優勝で幕を閉じた第104回全国高校野球選手権大会。個人的に強く印象に残ったチームがあった。それは41年ぶりに夏の甲子園8強入りを果たした愛工大名電(愛知)。「夏に勝てない」という不名誉なレッテルを払拭した名電ナインの「本気」がすがすがしかった。

 8年前に「頭髪の自由」を広げていた。「スポーツ刈り程度ならOK」。丸刈りの強制で「野球離れ」が進む状況に、倉野光生監督が危機感を抱いての判断だった。だが、この夏、部員たちは全員が丸刈り姿。気合を入れるわけでもなく、普段からずっと丸刈りで過ごしているため、普段通りに甲子園にやってきただけのことだった。

 強制じゃないのに丸刈りにする理由とは――。全寮制で49人全員が一つの大部屋で〝合宿所生活〟を送っている。ある日、どこからともなく部員間で「髪を伸ばすと髪型のセットに悩む」「結局、丸刈りが一番ラク」「散髪の頻度が増えるのはおっくうで、お金もかかる」と四六時中一緒にいる中でそんな声が集まったきた。その結果、結論はこうだった。「そもそも俺たちは野球をやりに来てるんだよな。携帯電話にしても手元にあるから触るだけで、ないならないで不自由はない。髪もやっぱり坊主がいいなあ」。一人、また一人と続いた。髪形の選択権を与えられながら「本気で野球をやる」上で自然と優先順位が整い、誰かに強制されるわけでもなく丸刈りを好んだ。

 愛工大名電では2年前からデータ集積の機器を導入して動作分析を行い、技術向上につなげている。目に見える数字が選手の「やる気」を後押しして成果を生んでいる。時代に沿った変革が進む中で、数年前には倉野監督自ら提起する形で、合宿生活を見直す動きも実際あった。だが、部の内外で「人間教育」として伝統継続のメリットを唱える声が多く、議論を経た末に今も続いている。変えようとする中で残るもの、実際に変えた結果、戻るものがある――。集団の中で「みんながやってるから、僕もやる」という圧迫感もない。非常に健全な集団だったことが、個人的に印象に残った理由だと思っている。

 押しつけられたり、縛ろうとすると反発心や疑念が浮かぶことは往々にしてある。一方で、自由を与えられたから見えるもの、尊いものに気づくこともあるだろう。「3年間みっちり野球がやりたいから名電に来た」。だから、選手はスマホ禁止で全寮制はむしろ望むところという。閉鎖的なイメージが先行しがちだが、実際は自由闊達な雰囲気であふれていた。NPB最多セーブ記録を誇る元中日の岩瀬仁紀さんが、長男・法樹(3年)を名門に託し、たくましくなった姿に目を細めているとも聞く。親は子離れが必要で、15歳で送り出す側にも覚悟がいる。だが、保護者からも選ばれる理由が分かる気がした。

 風通しが良く、選手が能動的。考える力が個々を伸ばし、ひいてはチーム力を伸ばす。普段はプロ野球を取材しているが、改めて「強い組織」に必要なものを教えられた夏だった。

(ソフトバンク担当・福田孝洋)