この男、「石ひとつで酒が飲める」と豪語する。名刺の名前の横には【石オタク】の文字が躍る。ブラックライト(紫外線)を当てると光る蛍石、天然オイルを閉じ込めた水晶など希少な原石の数々を見せられた記者は思わず「ほ、欲しい」と声を上げてしまった。46億年の時間軸で仕事をする男に、自然の声を聞く大切さを教えてもらった。
ドラマ「VIVANT」(TBS系)シーズン1第9話で重要なキーワードとして登場した蛍石(フローライト)。主成分はフッ化カルシウムの結晶だが、紫外線を当てると紫色に光るのは内部にレアアースを含むからだという。
「やっぱり光る石は強いですよね。国産でこのサイズはかなりの希少品です。この蛍石を砕いて炉に入れると鉄が溶けやすくなるので昔は融剤として使われていました。すぐれた絶縁性と高い熱伝導性をあわせ持つ稀有な石で、現在は半導体やカメラのレンズの製造に欠かせないものとなっています」
こう教えてくれたのは八千代エンジニヤリング株式会社の長谷川怜思氏。石への情熱はすさまじく、家には「石」と書かれた重い段ボールが並び、石を保管するためにレンタル倉庫を借りるという筋金入りだ。普段はどんな仕事をしているのか?
「建設コンサルタントと呼ばれる業種で、ダムとか道路、砂防、港湾関係であるとかそういったインフラづくりを技術面から支えています。官公庁さんが事業主体で、実際の工事はゼネコンさんが担当します。我々の仕事はあまり表に出ませんが、最近はESG投資(※)の広がりもあって一般企業にも自然や水環境への配慮が求められる時代。例えば水管理の国際標準規格であるAWS認証を目指す企業の支援も行っています」(長谷川氏)
既にお堅い会社のイメージを持たれたかもしれない。だが、地質と地下水を専門とする長谷川氏の名刺には数々の資格とともに【石オタク】という予想外の肩書(?)が印字されている。
「これですか? 資格欄がいっぱいで入る場所がなくなっちゃって、社内で私だけなんです。社長も広報も『どんどんこの仕事の魅力を発信しろ』って(笑い)。小中学校や地域でゲストティーチャーとして石や地学の魅力を伝えることもあります」
とはいえ、本業は自然と向き合う仕事だ。例えば地盤の状態を調べるボーリング調査以前に、道なき土地を歩き回り、岩石や地層を見分けて“石の地図”を作る。大切なのは「石や水の声を聞く」ことだという。
「地層や岩石には、地球の歴史が記録されています。だから縄文時代は今より陸が少なかったという話も『つい最近じゃん』っていう時間軸になるんですよね。地表に露出する地層から、この下には多分こういう地層があるだろうって推測していきます。ただ日本列島は複数のプレートがぶつかり合う変動帯で数キロ下には同じ地層や岩石が出てくるかは分からないんですね。それでも石ひとつを調べることで分かることがあるんです」
地質の目で見れば伊豆半島は日本ではなくハワイだという。
「100万年前ごろから本州に衝突してできた半島ですからね。富士山ができたきっかけとも言われます。自分で石のサンプルを取るところもありますが、採取禁止の場所や直接行けない産地は標本を買って産状を勉強しています。過去の大気やオイルなどが閉じ込められている石もあります」
そんな長谷川氏が提唱するのは「防災」ではなく「減災」という考え方だ。
「地震も洪水も地球からしたら自然現象なんですが、人が巻き込まれると『自然災害』になります。ハザードマップで色がついていないところがあったとしても決して安心はできなくて、ある条件を超えたら、たとえば山が崩れるような大雨が降った場合、離れた下流域でどんな被害が出るかまでは想定し切れない場合もあります。だからこそ子供たちが石や水の声を聞けるようになれば、災害を少しでも減らせるようになると思うんですよね。昔の人はそうやって危険を回避していたんですから」
私立の理系学部では地学を受験科目に設定しているところがほとんどなく、進学実績を重視する高校ほど物理・化学・生物を優先し、文部科学省が実施した2025年度の教育課程編成・実施状況調査によると、公立高校の全日制普通科3年次における地学の開設率は7・5%と著しく低い(物理=85・6%、化学=85・3%、生物=88・3%)。
映画「天空の城ラピュタ」でシータがムスカに対して放った言葉が思い出される。「どんなに恐ろしい武器を持っても、たくさんのかわいそうなロボットを操っても、土から離れては生きられないのよ」。フィジカルAIやドローンが身近になった今こそ、この言葉が重みを持つのではないだろうか――。
※環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)といった3つの非財務情報を考慮して行う投資
















