亡き恩師に捧げる快挙だ。陸上の世界選手権8日目(20日、東京・国立競技場)、女子20キロ競歩が行われ、藤井菜々子(26=エディオン)が自らの日本記録を更新する1時間26分18秒で銅メダルを獲得。女子日本勢では、五輪、世界選手権を通じて初の表彰台となった。8月下旬にはエディオンの元監督で指導を仰いでいた川越学さん(享年63)が急逝。悲しみを乗り越え、日本陸上界の歴史に新たな1ページを刻んだ。
左胸に喪章をつけてスタートラインへ立った藤井は、序盤から積極的にレースを進めた。一度は先頭集団から離れそうになったが「レース中も(川越さんが)絶対見守ってくれていると喪章を確認しながら、思いを背負って歩くことができた」。崩れかけたフォームを修正し、メダル圏内の3位で国立競技場に入った。
メダルを懸けた最後の直線は、パウラミレナ・トレス(エクアドル)が猛追。「ぱっと見たらトレス選手が来てたんで、危なかった」と苦笑いしながらも、わずかな差で逃げ切った。「メダルを目指して本気で取り組んできたことが、今日結果につながって純粋にうれしい」と声を弾ませた。
「コーチだけどお父さんのような存在」と慕っていた川越さんが天国に旅立ったのは、北海道合宿中の出来事だった。「本当に急なことで、私もたくさん後悔をして、1か月間苦しい思いがあった」と振り返る。それでも「きっと川越さんも私が落ち込むよりも、元気に歩いている姿を見守ってくださると思っている。そっちの方が絶対喜んでくれると思ったし、周りの方も言ってくださった」と懸命に歩き続けた。
エースとしての自覚を胸に挑んだ2024年パリ五輪はケガの影響で32位。「絶望」を味わったものの、悔しさをバネに大舞台で満開の花を咲かせた。「川越さんの分までとは、まだそこまでは言えないけど、川越さんの思いを背負って歩くことができた」と感謝を口にした。
日本競歩界は男子が好成績を残してきた一方で、女子は苦しい戦いを強いられてきた。「他の国の選手に『何で女子は弱いの?』と言われていて責任を感じていた」。男子に負けじと、女子の存在感を示した藤井は、さらなる高みを見据えている。
「まだまだ金メダルには程遠いが、まずは銅メダルを獲得できた。金メダルへの一歩を踏み出せた」
天国から声援を送る恩師へ、次は金メダルを手にした姿を届けてみせる。













