「75歳以上限定」のおばあちゃんたちが接客や調理を担う「ばあちゃん喫茶」が注目を集めている。運営するのは、地域の高齢者活躍を掲げる「うきはの宝」。代表取締役の大熊充さん(45)は、20代での大事故による長期入院中に高齢者に励まされた経験から「年を重ねても輝ける場をつくりたい」との思いを抱いた。福岡を拠点に広がりを見せるこの取り組みは、フランチャイズ化や「ガールズ婆」構想へと発展している。
木曜の昼、福岡市城南区の梅林にあるレンタルスペースにエプロン姿のおばあちゃんたちが集まる。仕込みは午前10時から。キャベツを刻み、みそ汁の具材を切る。この日働いた5人は全員が認知症を抱えた80代から90代で、昼の開店に向け準備を進める姿は頼もしい。
小規模多機能ホーム「なごみの家しかた」から送迎されて来るおばあちゃんたちは、木曜だけ梅林に出向き喫茶で働く。介護福祉士の宮嵜みちよさん(40)は「ここに来るとみんなしゃきっとする。人の役に立ち、幸せな時間を過ごしているのが伝わります」と話す。
厨房では谷口正子さん(85)が腕を振るう唐揚げ定食(950円)やとんかつが名物。手際よく油に入れる姿はベテランの風格で絶品と評判だ。
「認知症や介護を受けていても、役割があれば人は輝ける」。そう語るのは仕掛け人の大熊さん。2019年に会社を設立し、うきは市で食品事業を展開したのち、喫茶に挑戦した。「70代前半まではまだパートの仕事がある。でも後期高齢者になると受け皿がゼロに近い。ならば自分たちでつくろうと思ったんです」
原点は20代で遭ったバイク事故だった。4年間の入退院を経験し、孤独な闘病を支えてくれたのは病室で出会ったおばあちゃんたちだった。「夜中に声をかけてもらい、笑わせてもらった。その恩返しがしたい」と振り返る。
85歳の田中イツミさんは「料理を作ってお客さんが食べてくれるのが一番うれしい」と笑う。給料の使い道は「タバコ代かな」。20代からマイルドセブン一筋で「やめられんね」と豪快に話し、客席を和ませる。
実は「ばあちゃん喫茶」は“ときどきじいちゃん”の愛称もあり、おじいちゃんが働く姿も一部の拠点では見られる。大熊さんは「女性中心ですが、希望すればおじいちゃんも参加できる。活躍の場を広げていきたい」と語る。
報酬は売り上げに応じて分配され、ちょっとした買い物や孫へのご褒美に使われる。介護施設の枠にとどまらず「働く場」として機能している点が大きな特徴だ。現在、直営は梅林と春日の2拠点に加え、早良区の四箇田団地でも連携型の活動がある。熊本ではフランチャイズの派生型が立ち上げ段階にあり、和歌山では「ガールズ婆」計画が進行中。全国から依頼が寄せられ、フランチャイズ化やコンサルティングの形で広がっている。
一方で課題もある。「営利事業だから利益を出さなければいけないが、飲食業は利益率が低い。おばあちゃんランチを3000円で売れるかと言われたら難しい」と率直に打ち明ける。それでも「社会保障に頼らない社会づくりには挑戦が不可欠」と信念は揺るがない。
「人生100年時代と言うなら、後期高齢者にも活躍の場を。おばあちゃんやおじいちゃんが元気に働く姿は、日本の未来を明るく照らすと思う」。福岡発の挑戦は、笑顔とともに全国へ広がっていく。














