【元局アナ青池奈津子のメジャーオフ通信】ある日のスタジアムでの会話。「ジョエル! タイラー・グラスノーが若手時代にスランプから脱出したくて、スカイダイビングに行ったって話を聞いたんだけど…」「ああ、聞いた時はもう少しで殺してやりたいと思ったよ!」
ジョエルというのは、多くの大リーガーをクライアントに持つワッサーマン事務所のウルフ代理人だ。開口一番、そんなコメントだったから「そうでしょうとも!」と大笑いしてしまった。
当時のタイラーは「何をやっても投球が良くならないから、すごく怖い体験をしたら変わるのではないか。いっそ飛んでみたらどうか」とワラにもすがる思いだった。それにしてもなかなかぶっ飛んだ発想だが、切羽詰まった中で決めたものがスカイダイビングだった。ただし、大リーガーの契約ではNG行為。そのため、タイラーも6年以上たってからインタビューで明かし始めたと認めていた。
「(タイラーに)聞いていたら、私がやらせないことを知っていたから、彼は私にも意図的に知らせなかった」。そう語るウルフ氏は、やんちゃな子に頭を悩ませる父のようだった。
「昨オフにもあったんだ。彼はバケーションをとって旅をすることが好きで、私もそんな彼が好き。他の選手と違うからね。それで彼と(恋人の)メーガンが選んだ先はペルー。『お願いだから気をつけてね』と伝えていたんだけど、昨オフのまさに交渉真っ最中というタイミングで、彼は私にロープにつり下げられ、ヘルメットをかぶり、マチュピチュの崖の端のギリギリのところで撮った写真を送ってきた。足元は15センチほどしかない極細トレイル(小道)。彼の足のサイズは『17(約33センチ)』なんだよ! 足が飛び出しているのに『ヘーイ、バディ(相棒)!』みたいな感じでさ。私は『オーマイガー』と頭を抱えたよね」
それもすべてタイラーの狙い通りなのだという。「わざと私を苦しめるために送ってくるんだ。面白がって。全然面白くない」
怒ってもいなければ笑ってもいない感じ、と言えば伝わるだろうか。ウルフ氏の「私はそんな彼がとても好きだ」と繰り返す言葉には確かに愛情がこもっていた。心配に近い感覚なのかもしれない。そしてさすがは敏腕代理人。適度にタイラーの特徴を盛り込んでくれる。
「彼にとってマイナーリーグはチャレンジングだった。彼ね、簡単に飽きちゃうんだ。でも、投手はダウンタイムが長いでしょ? このスポーツは暇との戦いでもあるから。たまに夜はどう寝ているんだろう、どう頭を休ませているんだろうと心配になるよ。彼に会ったら分かると思うけど、彼の頭は常に時速100マイルで動いているから」
今オフ、タイラーたちが冒険先に選んだのは、アフリカのサファリだった。彼のインスタを見ると、プールに入るタイラーのすぐそばに象の大群がいたり、ライオンが近くを通り過ぎたり。そういえば、スカイダイビングは根本的な解決にはならなかったそうだが、タイラーは「あの日、少しだけ自由になれた気がしたんだ。野球以外にも楽しいことができたって。俺は野球だけに支配されているわけじゃないんだって」と言っていた。
ウルフ氏はこう語る。
「彼は人生を経験したいというタイプで、そこにはバランスが必要。彼自体は規制されていない時の方がとても良い人間だから、まるでワイルドホースだね。ケージに入れておくと、彼の素晴らしい能力は発揮されない。それは野球をやる上でも一緒。オフは旅をして、冒険をする必要がある。だからこそ、彼を好きでもあるんだけどね…」
ジレンマはまだまだ続きそうだ。
☆タイラー・グラスノー 1993年8月23日、米カリフォルニア州ロサンゼルス出身。右投げ左打ち、投手。2011年のMLBドラフト5巡目(全体152位)でパイレーツから指名され、16年7月7日のカージナルス戦でメジャーデビュー。18年7月末にレイズにトレード移籍。昨オフにドジャースにトレード加入。今季は開幕投手を務め、9勝6敗、防御率3・49の成績だった。203センチ、102キロ。








