【プロレス蔵出し写真館】「ベルリンの壁がなくなったよ」。

 今から34年前の1990年(平成2年)1月4日、「プロレス大賞」授賞式が終わってから4時間後、新日プロ社長に就任したばかりの坂口征二は、永田町のキャピトル東急ホテルに全日本プロレスのジャイアント馬場社長を表敬訪問した。

 新日プロと全日プロで結ばれていた、互いの外国人選手の引き抜き防止を定めた「紳士協定」が団体間でクリアされ、すでにNWA世界ヘビー級王者リック・フレアーの新日プロ2・10東京ドーム出場と、スティーブ・ウィリアムスの全日プロのシリーズ参戦が決まっていて、友好ムード一色。1時間半に及ぶ会談を終えた馬場は、終始ご機嫌。

「今まではお互いに弁護士を通しての話し合いだったが、新日プロの(坂口が社長に就任して)体制が変わり話し合いができるようになった」と笑顔を見せた。

 馬場は、89年11月9日に東西冷戦時代の東ドイツ・ベルリンの市街を分断していた「ベルリンの壁」が市民によって壊され、崩壊した事件に例えて冒頭の「(マット界の)ベルリンの壁」発言をしたのだった。

「合同興行、夢のオールスター戦実現か」の問いかけに、「そういうことをやろうと話し合った。もう差し障りはない。プロレス界が発展していくように前向きで取り組みたい」と馬場が言えば、「春か夏までに成果が出せると思う」と坂口も呼応した。

 そして、WWF(現WWE)の4・13東京ドーム開催が決まったことで、より早い段階で交流戦へと進むこととなる。

 ことの発端はNWA本部の一方的な横車から始まった。同月11日にNWA本部(米ジョージア州アトランタ)から新日プロ事務所にテレックスが入った。内容は「フレアーを派遣することはできない」というもの。

 考えもしなかった申し入れに対し、坂口を中心にNWA本部との折衝が重ねられた。「ケガ人が続出しているので」がNWA副会長ジム・ハードの言い分。しかし、NWAの真意はWWFの興行に新日プロが全日プロとともに協力するという話がネックだったのだ。「WWFに協力する団体にウチのチャンピオンを出場させるわけにはいかない」。そうNWA上層部の意見が固まっていた。

 粘り強い交渉を繰り返す一方、坂口は最悪の事態への対処に奔走した。

 18日深夜、馬場と会談。フレアーの来日が難航している旨を告げ天龍源一郎、スタン・ハンセンの貸し出しを要請した。

 この坂口の〝SOS発信〟に馬場は即断即決でOKの返事。そして、驚くべきことに馬場側から天龍、ハンセンだけでなくジャンボ鶴田、谷津嘉章、川田利明の参戦が提案された。これには坂口も「えっ、いいんですか?」。思わず聞き返したという。

 79年8月26日の「夢のオールスター戦」以来、約11年ぶりの団体交流戦が決まった。

 19日、NWAに対して逆に「フレアーの出場キャンセル」を通告し、全日軍団の出場が正式決定。その日、参議院議員会館に猪木を訪ねた坂口は、ドーム決戦のメインをかつての〝黄金コンビ〟猪木、坂口組 vs 橋本真也、蝶野正洋組と発表。

22日には天龍、川田組 vs 長州力、小林邦昭組と鶴田、谷津組 vs 木村健悟、木戸修組、そして最強外国人対決としてIWGPヘビー級王者ビッグバン・ベイダーにハンセンが挑戦する全日絡みのカードを発表した(後に川田がタイガーマスク=三沢光晴、小林がジョージ高野に変更された)。

 坂口は「今回は初めてのことなので天龍、長州組のタッグ実現とか、天龍 vs 猪木戦、鶴田 vs 猪木戦といったカードは今後の課題として残しておきたい」と語り、その後の展開も注目された。

木村(中)にサンドイッチ攻撃を決める鶴田(右)と谷津(1990年2月、東京ドーム)
木村(中)にサンドイッチ攻撃を決める鶴田(右)と谷津(1990年2月、東京ドーム)

 全日勢の参戦で前売り券は飛ぶように売れ、当日は超満員札止め6万3900人の観衆を集め、大会は大成功を収めた。ベイダーとハンセンのド迫力の激突、復活した猪木が左目を腫らし、鼻血を出しながら大会を締めるという非常に印象に残る、新日プロの東京ドーム大会の中でも出色のものだった。

 6月にはハンセンとクラッシャー・バンバン・ビガロのトレードが決まり、まさかのハンセン&長州のタッグが実現した。

長州がマサ斎藤(下)にサソリ固めを狙うとハンセン(右)がストンピングでサポート。まさかのタッグが実現した(1990年6月、大分)
長州がマサ斎藤(下)にサソリ固めを狙うとハンセン(右)がストンピングでサポート。まさかのタッグが実現した(1990年6月、大分)

 しかし、7月18日の新日プロ株主総会で猪木が会長職に就くと、交流戦は打ち止めとなり、壁は再び閉じられた。

 馬場と坂口の信頼関係で生まれた交流は、わずか半年で終わった(敬称略)。【プロレス蔵出し写真館】の記事をもっと見る