【取材の裏側 現場ノート】よほど新天地の水が合ったのだろう。昨年の現役ドラフトを経て阪神入団。移籍1年目で12勝2敗と大活躍、18年ぶりとなるリーグVの立役者の一人となった大竹耕太郎投手(28)のことだ。

 昨年までの5年間、在籍したソフトバンクでは通算10勝。不完全燃焼の日々から一転、今季は年間を通して先発ローテーションを守り、初の2桁勝利とプロ野球人生を変える1年となった。そんな左腕をV目前の時期に取材した時、印象に残るフレーズがあった。

 それは「こんなにコントロールで褒められたのは人生で初めて」というもの。見た目は184センチ、87キロと本格派のたたずまい。実際は直球、チェンジアップ、ツーシームなどの変化球を両サイドに丁寧に投げ分け、打者のタイミングを外す緩急も駆使する、どちらかといえば軟投派タイプだ。

 前出のフレーズは勝ち星が増えるつれ、その投球術も称賛されることが多くなったことへの感想でもある。本人は「ああ、そんなことで褒められるんだ…。俺にも長所あったんだって(笑い)。そんな感覚です。チーム的にも投手陣は制球力重視で、自分の居場所がある。そういう安心感を得ることができました」と新天地の居心地の良さを語る。

 昨年までのソフトバンク時代は「スピードガンと勝負していた時代もありました」。他の先発陣の主な顔ぶれは千賀(現メッツ)や石川など、常時150キロ以上の直球を投げる本格派がズラリ。今も左腕の直球は140キロ台前半から中盤だが、当時は球速を追い求めるあまり、最も肝心な対打者へ意識が薄れがちになり、満足できる結果を得ることも少なかったと振り返る。

 同時に虎入団後の〝上司〟となった安藤&久保田の両投手コーチへの感謝も口にしていた。これまで培ってきた投球術や制球力で「勝負できる」と、まずは見守ることに徹してくれたからだ。

「(阪神に)入団して投げ方や投球フォームなど一切、言われたことがない。自分は考えすぎたらワケが分からなくなるタイプ。だから、すごくありがたかった。普通は教えたがるじゃないですか。自分がコーチなら絶対に教えたがる(笑い)。でも、まずは信頼してくれて。否定されないっていうことを自分としては『自由のなかにある厳しさ』というふうに感じてやっていました。〝ああしろ、こうしろ〟もほとんど言われない。その信頼に応えたいと思ってやってきました」

 プロで生き抜くために自分の長所を磨くことに目覚めた左腕と、その能力を見抜いていたかのように静かに背中を押すことだけに徹した指導者。大ブレークの裏で理想的とも言える選手とコーチのプロとしての関係性を見た気がした。