【俺のWBC#4=王貞治氏】2006年の第1回WBCは、数々のドラマの先に世界一が待っていた。指揮した王貞治監督(82=現ソフトバンク球団会長)は選手の心のよりどころにもなったイチロー(当時マリナーズ)の存在が大きかったと振り返る。〝世界の王〟は今大会を前に米球界の大スター、ダルビッシュ有投手(36=パドレス)や大谷翔平投手(28=エンゼルス)の名前を挙げ、3大会ぶりの世界一奪回への期待を口にした。

 まさに激動だった。第1回大会では2次ラウンドから米国に舞台を移して戦った。その初戦、いきなりアウェーの洗礼が待っていた。

 アナハイムで行われた米国戦。3―3で迎えた8回一死満塁の好機に岩村(ヤクルト)が左飛を放ち、三走の西岡(ロッテ)がタッチアップでホームを踏んだ。米国側による離塁が早かったとのアピールに対し、プレーを確認していた二塁塁審はセーフの判定。しかし、ボブ・デービッドソン球審が判定を覆す。世にいう〝世紀の大誤審〟で勝ち越し点は消え、9回にサヨナラ負けを喫した。

 猛抗議した王監督は試合後に「野球がスタートした国である米国で、こういうことがあってはいけないと私は思う」と語気を強めた。17年が経過した今も「ジャッジに関しては、ホームタウンデシジョンみたいなものは出てきますよね。ああいう短期決戦はね。これはこれで仕方がない。あの時は本当は勝っていたと思うんだけどね。残念ながらね」と悔しさをにじませる。

 3戦目の韓国戦にも敗れて1勝2敗となり、決勝ラウンド進出は絶望的だった。勝負の鬼である王監督でさえ、さすがに覚悟を決めていた。しかし、神風が吹く。既に2次ラウンドでの敗退が決定的だったメキシコが米国を2―1で撃破。失点率0・01差で勝ち抜きが決まった。

 以降は日本野球の底力を見せつけた。準決勝でそれまで2戦2敗と煮え湯を飲まされてきた韓国を6―0で下し、最後は決勝でキューバを10―6で破り、世界の頂点に立った。「あれよあれよという間にあそこまで行ってしまったので。とにかく決勝戦はもう無心ですよね。勝つとか負けるかより、ここまで来たら日本らしい野球をやろうやということで思い切りよくプレーしてくれた。日本の力を発揮できたキューバ戦だった」

 06年のWBCを振り返る際、決まって挙げるのがイチローの存在だ。過去にもこう感謝を口にしている。「あの時は第1回目で12球団の足並みもそろっていなくて、なかなか選手も集まらなかった。彼が一番最初に米国から連絡をくれて『出ます!』と言ってくれたのは心強かった。みんな、相手を過大評価してしまう。米国で大活躍していたイチロー君が『むしろ我々のほうが優れている部分もあるんだ』と常々話してくれたことで、選手は自信を持ってグラウンドに立てた」

 選手の多くにとって、イチローは憧れの存在だった。その意識の高さもチーム全体の刺激となっていた。〝世界の王〟はこんなエピソードも明かしている。「彼は米国に家があるから『家から通わせてくれ』というので『いいよ』と。その代わり、彼は我々のバスがグラウンドに着くころにはガンガン打っていたり、走っていたりしていた。打つ打たない以外でも、一緒に参加した選手たちは大きな影響を受けたと思う」

 今大会も準決勝、決勝が行われる米国では完全アウェーになる。相手選手の力量はもちろん、球場の雰囲気、現地での過ごし方まで熟知している大リーガーの存在はチームにとって大きい。しかも今大会は米球界でトップに位置する大谷、ダルビッシュが参加する。

 真っ先に宮崎入りして準備を進めるダルビッシュの姿は、当時のイチローを想起させる。王氏も「大谷君やダルビッシュ君からいい話を聞いたりして、我々とそんなに差は無いんだという気持ちで戦ってくれたら、日本はいい戦いができると思います」と期待を込める。

「僕が選手のころは(日米野球で)米国が来てくれても練習試合の延長みたいな感じで。向こうはゴルフバッグを抱えて観光気分でやって、それでも我々は負けていた。それが今の日本の野球はすごくレベルアップして、世界でもトップ3に入るわけですからね」

 第1回大会の優勝監督は、3大会ぶりの世界一に向け「選手は日の丸を背負うと別人になる。そこが僕はすごく印象的だった。今回も選ばれた人たちは個人のことではなくチームのため、日本のためということで、真剣に戦ってくれると思う。日本チームはいい戦いをしてくれると思います」とエールを送った。