「伊勢さんにとことんついていきます!」

 2022年のドラフト会議で広島に7位指名され、プロ入りしたのが久保修外野手。全国的には無名の、大阪観光大学初のプロ野球選手となった。

 そんな久保が大阪観光大野球部で特別アドバイザーを務めている伊勢孝夫(本紙評論家)に、プロ野球選手になるための徹底指導をお願いしたのが、大学2年春のことだった。

 伊勢が述懐する。

「本人が腹をくくったわけだから。そこからは脇目もふらず、野球だけのことを考えるようになったね」

 78歳の伊勢は今でもマウンドに上がり、打撃投手として特打の相手をする。とにかく付きっ切りで特打、ティー打撃の日々…。

 具体的なアドバイスとしては「まずスイングがアッパーだったのをレベルにした。それから手首を早く返そうとするクセを矯正し、テークバックが懐に入りすぎるところを後ろに真っすぐ引くように。ほかには頭の位置と、軸足の太ももへの意識を強くもつこと。どれも基本的なことだけど、基本を体に叩き込むことが何より大事で、久保には『勘違いするなよ。お前が高校まで打てていたのは、(金属)バットが仕事してくれたんや。木製のバットはごまかしがきかんのや!』と言いました」。

 そんな日々でも結果が目に見えて出るまでには「1年ぐらいはかかったかな」。3年秋のリーグ戦では11試合で打率3割2分6厘、1本塁打で2部リーグのベストナインに。4年春のリーグ戦では11試合で打率3割4分9厘、2本塁打で1部リーグのベストナインに輝いた。

「もうどこに出しても恥ずかしくはないだろう」

 3年秋の時点で手ごたえを感じた伊勢は、次の手に出る。

「面白い選手がおるんや。ちょっと見に来いよ」

 大阪観光大学の練習を最初に見に来たNPBのスカウトは、楽天とDeNAだった。

「伊勢さん、確かにこの肩はすごいっすね!」

 まず〝プロの目〟にとまったのは、久保自慢の肩だった。

「『とんでもない肩の選手が観光大にいる』って、そこからスカウト間の口コミでぶわーっとウワサが広まってね。12球団のスカウトがみんな見に来るようになった。なかでも熱心だったのが広島でね。『これは広島あるんちゃうかな…』とその時から思ったものです」

 広島の担当は鞘師智也スカウト。

「スカウトは結構みんな固まって練習を見てるんだけど、鞘師だけは離れて見ていてね。のちのち、ドラフト前の各球団との面談のときには、久保を叱ってくれたこともあったんです」

 4年秋のリーグ戦、久保は足を故障し、万全な状態ではないにもかかわらず試合に出場していた。もちろん各球団のスカウトたちも、久保の状態は分かっている。

「鞘師が叱ってくれたのは『どんなに状態が悪くても、試合に出ている以上は痛がるそぶりを見せてはいけない。お金を払って見に来ているお客さんの前で、試合をするプロ野球はそういう世界なんだ』と。本当にありがたいことです。だからこそ最後の最後で、広島が指名してくれるような気がしていたんです」

 12月12日、広島の新入団選手記者会見。久保は「三拍子揃った外野手を目標として、バランスのいい選手ではなく何か輝いたものを放っていける選手を目指していきたい。1日も早く、マツダスタジアムの熱狂的なカープファンの前でプレーできるよう頑張っていきたい」と声を張った。

 伊勢は「打撃の型はできている。あとはプロのスピードに慣れさえすれば…ですね。試合に出られれば、打率3割、本塁打も15本や20本ぐらいは打てる。右打者なんだけど、右中間へほれぼれするような打球を飛ばすんですよ。とにかく3年間は脇目もふらず、頑張ってほしいね。久保にも『3年間は女をつくるな!』と言ってあるんです」と笑った。

=敬称略=