「広島東洋 久保修 大阪観光大学」
2022年10月22日、ドラフト会議が行われていた都内のホテル。開始から2時間が経ったドラフト7位の指名順で、大阪観光大の野球部員の名前が創部11年目にして初めてコールされた。
「観光大の会見場、本人と久保のお母さんと監督、部長と私で午後4時半からずっと待ってたからね。マスコミも新聞、テレビ各社がずらり。選択終了する球団もいくつか出ていたから『こりゃあ育成かなあ…』という空気になっていた。指名されてホッとしましたよ」
そう述懐するのは、大阪観光大野球部で2016年から特別アドバイザーを務めている伊勢孝夫(本紙評論家)。現役時代は近鉄、ヤクルトで活躍し「伊勢大明神」と呼ばれた強打者で、引退後はヤクルト、近鉄、巨人などで打撃コーチを務めた。そんな伊勢にとっても、久保の指名は「自分が直接かかわった教え子で、ドラフトにかかったのは初めてだったから」と感慨はひとしおだった。
久保と伊勢の出会いは2019年の春。最初の印象は「とにかく足と肩がすごかったね。とくに肩。長いことプロ野球の選手を見てきたが、これまでに見たことのないようなスローイングをしていた。しいて言うなら若いころの新庄剛志かな。打つほうを何とかできれば、プロも夢じゃないと感じた」。
しかし、大学入学当初の久保に、伊勢が声をかける場面はほとんどなかったという。
「みんなと同じような指導はしたよ。でも、あのころの久保は遊びたい気持ちのほうが強かったんじゃないかな。高校は島根の石見智翠館で、3年間寮暮らし。そこから大学で地元の大阪に帰ってきて、誘惑はいくらでもあるんだから遊びたくもなるよ。背が高くて男前だから周りの女の子たちも放っておかない。芯の強いところはあったけど、根は優しい子。かなりモテていたみたいだから」
伊勢の指導スタイルは、とにかく選手とじっくり話し合い、腹をくくらせること。「聞く耳」を持ってくれないと、いくら指導しても「右から左」となってしまう。それは相手が外国人選手でも変わらない。ヤクルト時代のハウエルや、近鉄時代のローズ、クラークを指導したときも、遠い異国の地で寂しい思いをしている助っ人たちの気持ちに寄り添いながら、信頼関係を築いてきた。
転機が来たのは2年春。思うような打撃ができず、伸び悩んでいた久保と話すタイミングがあり、こんなやりとりがあったという。
「おい久保、この先、将来のことはどう考えているんだ?」
「上を目指してやりたいと思っています」
「今のままじゃプロどころじゃない。本当にプロに行きたいんだったら、私生活も含めて見直さなきゃいかん。女の子と遊んだり、横道にそれている時間はないぞ。その代わりにオレの言うことを聞けば、プロ仕様にしてやる。でないとオレはやらん!」
久保の答えは…。
「伊勢さんにとことんついていきます!」
以降、伊勢と久保のマンツーマンの「プロ仕様トレ」が始まった――。
=敬称略=












