猪木VSアリ。1976年6月26日に日本武道館で行われた「世紀の一戦」から、今年で40周年を迎えた。その後の格闘技の発展に大きな影響を与えたとされ、いまや伝説と化している。一方、その後日談についてはほとんど語られていない。本紙は、決戦から11か月後にアントニオ猪木氏(73=参議院議員)に届いたモハメド・アリ氏(74)からの「招待状」の写真を緊急入手。世紀の一戦の後に何があったのか。猪木氏を直撃した。
現役最強のプロレスラーとプロボクシングの現役世界ヘビー級王者の激突。「格闘技世界一決定戦」と銘打たれた一戦は、世界中にクローズドサーキットで映像が流され、大きな話題を呼んだ。
だが肝心の試合は15ラウンドを戦って決着つかずの引き分け。しかも猪木はルールでほとんどの得意技を禁止にされており、終始あおむけに寝転んだままで、攻撃は下からアリにキックを繰り出すだけだった。ボクサーのアリが寝技に付き合うわけもなく、大きなアクションがないまま終了。全世界から「世紀の茶番」と大ブーイングを受けた。
興行的にも成功とは言えなかった。アリ側に莫大なファイトマネーを支払ったこともあり、試合を主催した新日本プロレスは「三十数億円の借金」(猪木氏)を背負うことになる。アリ側ともギャラの支払いをめぐって紛糾し、訴訟にもなった。
そうしたなかで決戦から11か月後の1977年5月、猪木氏は一通の手紙を受け取ることになる。それはアリ氏からの結婚式への招待状だった。アリ氏は同年6月19日、米カリフォルニア州ビバリーヒルズでベロニカ・ボーシュさんとの結婚パーティーを開き、約250人を招待した。猪木氏もその1人だったのだ。
招待を受けた猪木氏は当時の倍賞美津子夫人、愛娘の寛子さんら家族、スタッフとともに渡米。伝説の一戦からわずか1年後にアリ氏と再会を果たすことになった。
猪木氏「結婚式というより、内輪のパーティーでしたね。招待を受けたんで、参加した。アリはロスに引っ越してきたばかりだったけど、ビジネスマンのように振る舞っていたんで驚いた記憶がある。自宅のスイートルームにも通してくれたんだけど、イタズラを仕掛けられて、それにも驚かされたね。フフフッ。当時、うちの娘は3歳だったけど、アリに抱き上げられた写真が今でも残っているよ」
ただ、当時の猪木陣営とアリ陣営は水面下ではモメていたはず。なぜ猪木氏を招待し、友達のように歓待したのか。
猪木氏「まあ、アリもオレらの事情を知ってくれていたからね。経済的状況が厳しいということも。アリのほうはクローズドサーキットの権利とかほとんど持っていった。収益が三十何億円あっても、オレらの取り分は何%だけ。あとはみんなアリ…という契約だったから。でも当時、その(アリ側の)お金はみんな消えちゃったらしい。何があったのかは知らないけど。フフフッ」
一方で猪木氏がアリ氏の招待を受けたことには、別の目的もあった。それは「世紀の再戦」の交渉をするためだ。当時の本紙でも再戦の可能性を連日報道。猪木氏も「友情はしばらく棚上げ。本当に私とアリが生きるか死ぬかの問題で話し合う」(77年6月22日付本紙)と気合の入ったコメントを残しているが…。
猪木氏「ちょっと違いますね。当時、オレがウガンダのアミン大統領と戦うって話があって。具体的にやってくれたのが(プロデューサーの)康(芳夫)さんで、かなり入れ込んでいた。それで『アリにレフェリーをやってもらおう』ということになった」
当時のイディ・アミン大統領(故人)はアフリカのウガンダで独裁政治を敷き、政敵を次々に弾圧。虐殺も行った。「黒い皇帝」と呼ばれた一方、元軍人でボクシングでも活躍した武闘派だった。そのアミン大統領との決戦話が進む中で、アリ氏のレフェリー起用が浮上。その交渉の発端が結婚パーティーだったというのだ。
この仰天マッチは79年1月に同年6月10日ウガンダ開催で“正式発表”までされたが、アミン大統領が失脚して流れ「アリレフェリー」も幻に。それでもこの再会を機に、猪木氏とアリ氏はさらに親交を深めていくことになる。また、当時の試合の評価は散々だったが、2000年代になって日本に格闘技ブームが到来すると、総合格闘技のリングでは“猪木アリ状態”が当たり前のように出現。猪木VSアリがいかにギリギリの状態で繰り広げられた極上の格闘技戦だったかがわかるようになり、再評価につながった。
猪木氏「アリが戦った相手でその後、付き合った相手はいなかったんじゃないかな。ここ何年かは連絡がつかないけど…。人生を振り返ると誰と出会ったかということになるけど、オレは師匠の力道山、そしてアリ、ということ。出会えて良かったと思う」
猪木対アリの伝説はまだ続いている。
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