闇は深い。北京五輪フィギュアスケート女子で4位に沈んだロシア・オリンピック委員会(ROC)のカミラ・ワリエワ(15)のドーピング騒動が、さらなる波紋を広げている。国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長がワリエワを叱責したコーチを批判するなど混乱が続く中、元全日本選手権4連覇王者の小川勝氏が今回の問題点をズバリ分析。さらに、元国際審判員の杉田秀男氏は古くから続くロシアの「勝利至上主義」の驚くべき実態を明かした。


 ワリエワを巡っては昨年12月に採取された検体から禁止薬物トリメタジジンが検出。未成年であることからスポーツ仲裁裁判所(CAS)に出場を認められたものの、IOCはワリエワが3位以内に入った場合は表彰セレモニーを実施しない異例の措置を取った。結果は17日の女子フリーで、ジャンプミスの連続で4位に転落。演技後に泣き崩れる場面も含めて、世界に衝撃を与えた。

 小川氏は「正常な気持ちで戦えるわけがない。体は重いし、明らかに情緒不安定。すごい選手なのに、今回はひどかった」とワリエワの演技を振り返り、IOCの対応には「表彰式をやらないというのは、まるで犯人扱い。CASが出場させると決めたなら、他の選手と同様に扱うべきだった。こんな状況に15歳が耐えきれるわけない」と疑問を投げかけた。

 ワリエワに代表されるROCの「低年齢化」もフィギュア界の課題の一つ。大人になる前の少女が軽量を生かして4回転を次々と跳び、20歳を前に競技をやめていく。小川氏は「成長が進むにつれて4回転は跳べなくなる。その前にメダルを取らせてしまおうということだが、これは現在の足し算方式の採点法に問題があるのではないか。昔はジャンプが跳べても円熟味がなければ上にいけなかったが、今は基礎点の高いジャンプを跳べば勝てる競技になった」と問題提起した。

 一方、女子フリー直後には別の騒動も勃発。失意のワリエワに対し〝鉄の女〟エテリ・トゥトベリーゼ・コーチが「なぜ戦うことをやめたのか?」と叱責したのだ。これを見た杉田氏は「普通じゃ考えられない。選手を慰めなければいけないのにビックリした」と目を丸くし「やはり古くからの組織的な体質が裏にあるのでしょう」と嘆いた。

 古今東西、ロシアにはコーチの派閥が存在し、対抗勢力に勝つためには手段を選ばない。トゥトベリーゼ・コーチについて、杉田氏は「彼女は新興勢力です。大御所に対抗するのに、あの手この手で勝ちにいく。だから選手を次々に発掘し、入れ替えていくんです」と指摘。勝利への執念は並大抵ではないようだ。

「昔の話ですが、教え子がいい結果を出すとコーチや役員の待遇は一変する。勲章を手にして、家や車までもらえた。一生、食べていけるんです」

 選手を勝たせるため、ジャッジに対するリンク外の〝営業活動〟もかつては常とう手段だった。「僕にも来ましたよ。宿泊しているホテルに役員がキャビアとウオッカと琥珀を持ってきてね」。その役員に「うちの選手をどう思う?」と聞かれ、杉田氏が「とてもいい選手だ」と答えると「試合でもその意見を変えないことが大事だ」とプレッシャーをかけてきたという。

 今回、ワリエワは組織的に薬物を飲まされた疑惑もある。選手を〝サイボーグ〟のように扱う陣営について、杉田氏は「もう昔のようなことはないと思っていたけど、まだ残っているんだと感じました」と率直な感想を語った。

 やはり、氷山の一角にすぎないのか。今回の騒動が収束したとしても〝第2のワリエワ〟が出てこないとも限らない。