【全米オープン】大坂なおみ〝抗議マスク七変化〟の真意

2020年09月02日 05時15分

【ニューヨーク31日(日本時間1日)発】〝大坂の乱〟はまだまだ続く。テニスの全米オープン女子シングルス1回戦で世界ランキング9位の大坂なおみ(22=日清食品)が同81位の土居美咲(29=ミキハウス)を下し2回戦に進出した。3度目の4大大会制覇へ上々の発進となったが、それ以上にコート外の話題で持ち切り。警官による黒人男性銃撃事件への抗議でボイコット騒動を起こした前哨戦に続き、今大会では〝抗議マスク七変化〟を宣言したのだ。日本社会にはなかなか伝わりにくい大坂の行動の「本質」を専門家に聞いた。

 前哨戦の「ウエスタン&サザン・オープン」では「BLAK LIVES MATTER(BLM=黒人の命も大事だ)」のTシャツを着て話題を呼んだが、今大会も初戦から〝無言のメッセージ〟を発信した。

 センターコートに登場した大坂は今年3月に警官に射殺された黒人女性、ブレオナ・テーラーさんの名前が記された黒マスクを着用。フルセットの末に勝利して2回戦進出を決めると、決勝までの試合数と同じ7枚の異なる名前が入ったマスクを用意していることを明かし「7枚じゃ名前の数に十分じゃないのが悲しいところ。決勝までに全てを見せられるといい」と日替わりの〝差別抗議マスク〟を宣言した。

 こうなると独壇場だ。当初は大坂の姿勢に称賛する声が多かったが、ここへきてネット上では「さすがにやり過ぎ」「大会は政治的発言の場ではない」と否定的意見が増えた。スポーツ選手が政治的発言をすることを避ける傾向がある日本社会では、なかなか大坂の〝真意〟は伝わりにくい。

 では、一連の大坂の言動を専門家はどう見ているのか。人種や米国スポーツ史に詳しい早大の川島浩平教授(59)は「まずは幼少期からいろんな経験をしていて、積もり積もったものが出てきたのかもしれませんね」。大坂がハイチ出身の父と日本人の母のハーフであることに言及し「いろいろあつれきというか、被差別意識もあるんじゃないでしょうか。本人はハッキリ言っていないと思うんですけど、国際社会で活躍しているアスリートにとって情報は世界から入ってきますからね。今、自分がそういう態度を取るべきだと判断したのでは」と分析する。実際、大坂は米NBAのボイコット行為に触発され「自分も声を上げないと」と使命感にかられたことを明かしている。

 そもそも研究者の間では「人種は科学的根拠がなく、定義できるものではない」との見解があり「自分がどういう意識を持ち、他者がどう認識するか」を重視するという。それだけにツイッターに記した「私はアスリートである前に黒人女性」という大坂の言葉には、川島氏も「ちょっとびっくりしましたね」と驚いた様子だった。

 大坂は22歳で日本国籍を選んだ以上、社会的には〝日本選手・大坂なおみ〟と認知されていた。川島氏は「これまでは日本のハーフアスリートだったと思うんですが、今回の『BLM』という世界的な運動を通して、彼女はある意味ハーフであることを超え『ブラックウーマン』としての意識を再確認したのかも」と推測。ただ、これが「日本人として東京五輪に参加する、日本の仲間に入ろうとしながらもスケールがデカくなって、一部ではがっかりした方々(日本人)がいるかもしれない」とも付け加えた。

 その一方で川島氏は、かつてボクシング元世界ヘビー級王者の故モハメド・アリ氏が差別的な扱いを受けたこと、男子ゴルフのタイガー・ウッズ(44=米国)が過去に自らを「カブリネイジアン(白人、黒人、アメリカインディアン、アジア人を合わせた言葉)」と答えたことを挙げ、人種問題はそれぞれのケースを個別に考えるべきと強調する。「アスリートの資質と人種は別問題。白人は許されて、黒人はダメという風潮になるのが心配なので、そこは切り離さないといけませんね」

 根深いテーマだけに解決策は難しいが、大坂の〝マスク七変化〟が世界に大きな影響を及ぼすことは間違いない。