【取材の裏側 現場ノート】新日本プロレスにとって今年は旗揚げ50周年のメモリアルイヤーとなる。節目の年を直前に控えた昨年末、くしくも同時期に、団体の歴史をつくってきた2人のレスラーをインタビューする機会に恵まれた。エースの棚橋弘至と、現在は世界最大団体WWEで活躍する中邑真輔だ。

「新日本史上最大のライバル関係」と言えば「藤波辰爾―長州力」を挙げるファンが多いかもしれないが、2009年から新日本を担当してきた記者には「棚橋―中邑」に特別な思い入れがある。暗黒時代とも呼ばれた2000年代半ばから先頭を並んで走り続けた2人の戦いなくして団体の再興はなかっただろう。かつては激しく反目し、いつしか認め合う関係となった両雄の通算成績は棚橋の9勝7敗1分け。2016年1月の中邑の退団によってライバルストーリーは一時的に終止符が打たれた。

 中邑は昨年5月に米国のメディアで「また棚橋選手とは戦いたい」と発言したことが話題になった。取材の合間に改めて真意を問うと「やっぱりまだまだこっちで活躍したいっていうのもあるし、成し遂げたいっていうものもある」と前置いた上でこう答えた。「『引退試合の相手は誰にしたい』って聞かれたから、うーん、どうかなって思って。棚橋さんとは本当にいい試合って、できてない気がするんですよね。もうできないかもしれないけど、ハハハ。その時その時、生の感情をぶつけ合ってきた対戦相手なので、最後にもう1回戦ってもいいかなと思ってますけどね」

 05年1月4日東京ドーム大会での初対決を皮切りに、2人の試合は間違いなく一つの時代を築いてきた。だが納得できる〝作品〟を残せていないという点では棚橋の見解も一致していた。「ベストバウトにノミネートされるような試合が、まだ1個もないんですよね。『どっちがこの先の新日本を引っ張っていくんだ』とか、期待感や重要度の高い試合は何度もやってきたんですけど、本当にスイングした試合(がない)っていうのが僕の感覚にありますね」

 中邑は日本のプロレスのレベルの高さを世界に発信するために海を渡り、棚橋は新日本を世界一にするために日本で戦ってきた。2人の間には壮大なテーマが上積みされている。棚橋は「何度もやりましたけど…本当に最後の最後ってことになったら、どっちが勝つんだろうっていう勝負論もある。お互いね、新日本でやっててきたもの、海外でやってきたものっていうところでの価値観のぶつけ合いだったりとか、見るべきものが多い試合になると思いますし」と分析。「中邑は、ひょっとしたら米国で(キャリアを)終えるくらいの気持ちでやってるんじゃないかなと思うので、なかなかね実現する可能性は低いと思ってるんですけど。何が起こるか分からないのがプロレス界なのでね」と目を輝かせた。

 創始者・アントニオ猪木氏の言葉を借りるのならば「一寸先はハプニング」。もしも2人の18回目の対決が実現するならば…そんな想像もプロレスの醍醐味の一つだ。見る者のロマンを全て飲み込んで、新日本は未来へと進んでいく。

(プロレス担当・岡本佑介)