G1決勝の大舞台で起きたアクシデント レッドシューズ海野レフェリーの判断と選手との信頼関係

2021年10月24日 07時00分

G1決勝戦でオカダの手を挙げる海野レフェリー(東スポWeb)
G1決勝戦でオカダの手を挙げる海野レフェリー(東スポWeb)

【取材の裏側、現場ノート】新日本プロレス最高峰のリーグ戦「G1クライマックス」の優勝決定戦(21日、日本武道館)はまさかの結末を迎えた。史上初の大会3連覇を狙った飯伏幸太がフェニックススプラッシュを放った際に負傷。レフェリーストップ負けでオカダ・カズチカの7年ぶり3度目の優勝が決まった。

 プロレスは怪我と隣り合わせのスポーツで、こういったアクシデントをなくすことはほぼ不可能に近い。それがG1決勝という大舞台で起きてしまっただけに衝撃は大きかった。一方でその裏側で光ったのは、新日本プロレスのメインレフェリーであるレッドシューズ海野の迅速な判断だった。

 33年のキャリアを誇る海野レフェリーは、レフェリングの上で重要な要素に「選手との信頼関係」を挙げる。G1のようなリーグ戦では、満身創痍の状態で戦う選手も出てくる。古傷の把握はもちろん、現在どこを痛めているのか、どの程度まで動けるのか。今回の飯伏のケースで言うと、直前の試合で肘を少し痛めていることを知っていた。負傷直後は一瞬、肘が悪化したのかと頭をよぎったという。

 その後もうずくまったような状態で動くことができない飯伏は、うなるように痛みを訴えている。そして右肩の負傷を確認した瞬間、即座に試合をストップした。本サイトの取材に海野レフェリーは「あいつは意地でも(試合を)やるタイプだから。だけど大きい舞台であれ以上やらせることはできないと、咄嗟に判断したんだろうね」と振り返った。

 怪我を押してでも選手が試合をするのはどんなスポーツでも見られることだ。飯伏に関して言えば2010年の「ベスト・オブ・スーパージュニア」優勝決定戦で左肩を脱臼しながら試合を続けた過去がある。また今年のG1を左膝内側側副靭帯損傷・半月板損傷で欠場した内藤哲也も、負傷したザック・セイバーJr.戦ではギリギリまで戦い続けた。海野レフェリーが「アイツ(内藤)が一番頑固だから。まだできるのに止めちゃったりしたら、それこそ控室でぐちぐち言われるよ」と苦笑するように、とりわけプロレスの試合におけるレフェリーストップは難しい判断を迫られる。

 ましてや両選手の人生を左右しかねないほどの大一番だ。間違った判断でレスラーに後悔を残してしまったら、一生恨まれるかもしれない。「止めて欲しくないと思うヤツもいるけど…難しいよこれは。ひと言では言い表せないくらい。たまたまG1の決勝という大舞台でこういうことが起きたけど、試合中の怪我は今に始まったことじゃない。何百回、何千回とあっても慣れることはないよね」。試合を成立させ、観客を満足させることと選手を守ることの狭間でレフェリーも戦っている。海野レフェリーは「俺個人は選手との信頼関係で成り立っていると思ってる。飯伏に限らず、各選手、これだけ皆長く付き合ってるからさ。選手一人ひとりの性格まで把握しているつもりでいるから」という矜持とともにリングに立っている。

 優勝決定戦当日の夜、海野レフェリーのもとに飯伏から連絡があった。「酔っぱらって『今から来い!』なんて電話することはしょっちゅうあったけど、真剣に話をしたのは初めてかもしれないな。『ご迷惑をおかけしました』みたいな感じだったけど『かけてないし謝る必要ないよ』って話した気がする。まあでも、リング上で泣けて幸せだよ。いい経験をしてるじゃない。俺もいい経験をさせてもらったし、今まで以上に気を引き締めてレフェリングしないといけないと思ったよ」

 気の毒なことに、普段のリング上ではこういった海野レフェリーのカッコいい姿を見るよりも、面倒に巻き込まれる姿を見るケースの方が圧倒的に多い。やれカウントにケチをつけられたり、やれセコンドから仕事を妨害されたり、時にはレスラーから手をあげられる始末だ。取材の最後に海野レフェリーは「レスラーももっと俺のことをリスペクトしなさいって書いておいてよ。八つ当たりをレフェリーにするなって」と、電話口で豪快に笑っていた。

(プロレス担当・岡本佑介)

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