【取材の裏側 現場ノート】東京スポーツ新聞社制定「プロレス大賞」選考委委員会では、2021年度から新たな試みを始める。今回は「特別選考委員」として蝶野正洋さんと、小橋建太さんが参加。1997年MVPの〝黒いカリスマ〟と96、98年MVPの「鉄人」が、プロの目で現在のプロレス界にどんなジャッジを下すのか。ともに試合中継の解説経験も豊富なだけに興味深い。
 
 記者にとって「プロレス解説」で思い出されるのが、故・三沢光晴さんの言葉だ。三沢さんが全日本プロレスのエースとして君臨していたころ、記者は駆け出しの身。プロレス界の敷居の高さにはね返されてばかりだったが、三沢さんは試合前の雑談にも気軽に応じてくれた希有な人だった。ある日のこと、雑談中にこう問われた。 

「プロレスってさ、なんで記者の人が解説しているのかね。みなさん、受け身とったことあるのかなあ」

 プロレスの解説者といえば故・櫻井康雄さんや故・山田隆さん、現在も選考委員を務めていただいているプロレス評論家の門馬忠雄さんら、レジェンド記者で大先輩ばかり。ジャイアント馬場さんやマサ斎藤さんら現役選手&OBも解説席に座っていたが、プロ野球や大相撲、できたばかりのJリーグでもほぼ選手のOBが解説を務めていた。

 もちろん表に出ない情報を把握し、日々の取材という形で競技に接する記者が解説を務めることや表彰に携わることは、他の競技でもスタンダートだ。大谷翔平選手の米大リーグ・MVP獲得も、記者投票によって決まった。プロレス界においてもレスラーと一緒にトレーニングし、〝実体験〟した先輩記者もいたが、当時は「解説者=記者」のイメージが強かったのは事実だ。
 
 そうした状況に、日本プロレス界の大黒柱としては、ひと言物申したかったのだろう。〝受け身の達人〟と言われた三沢さんの強烈なプロ意識をみたような気がしたが、その三沢さんは2009年6月にリング上の事故で亡くなった。今となってみれば、非常に重みのある言葉だった。

 現在のプロレス中継では、OBばかりか現役レスラーも解説席に座る。そうした中で「プロレス大賞」も「プロの目」を入れるべきではないか。そんな議論から始まった「特別選考委員」。天国の三沢さんも、きっと蝶野さんと小橋さんの選考を楽しみに見ていてくれるはずだ。

(プロレス担当・初山潤一)